なぜ水谷隼&伊藤美誠ペアは宿敵中国を破り日本卓球史上初の五輪金メダルを獲得することができたのか
卓球帝国・中国の牙城に風穴を開けた。日本卓球界の悲願をかなえた。東京五輪から卓球競技で採用された新種目、混合ダブルスで第2シードの水谷隼(32・木下グループ)、伊藤美誠(20・スターツ)ペアが頂点に立った。 第1シードの許シン、劉詩ウェンペア(中国)と東京体育館で激突した26日の決勝戦。2ゲームを連取される展開から巻き返した水谷・伊藤ペアは、3-3で迎えた最終第7ゲームでいきなり8ポイントを連取するなど圧倒。過去4戦全敗だった難敵から痛快無比な逆転勝利をあげて、日本卓球界で初めてとなる五輪での金メダルを獲得した。
水谷が作った絶妙の間合い
ともに譲らない展開でもつれ込んだ最終第7ゲーム。予想された白熱の攻防を出だしからくつがえし一、流れを一気に日本へと傾かせたのは、東京五輪が最後の国際大会になると明言している日本卓球界のエース、32歳の水谷が利かせた“機転”だった。 伊藤のサービスを劉が返した3打目。それまではほぼすべてをクロスに打ち返していた水谷がストレートへ打ち抜くと、許はまったく反応できない。1ポイントを先取し、さらに伊藤のサービスがネットに触れてレットとなり、やり直しになった直後だった。 卓球台の上に落ちた汗を拭いてほしいと、水谷が審判へおもむろにリクエストする。新型コロナウイルス禍において国際卓球連盟(ITTF)が設けた、自らのタオルを使用できない特別ルールに則って係員が台上を拭き終え、試合が再開されるまでに30秒近くを要した。 日本がポイントを先取したいい流れを、自ら断ち切るようにも映った場面。しかし、日本初のプロ卓球選手として4度の五輪に出場し、一般社団法人Tリーグの前チェアマンで、現在はアンバサダーを務める松下浩二氏は「あの間合いが許選手を悩ませた」と指摘する。 「間合いが生じると人間はいろいろなことを考えますよね。あのままプレーが続くと『続けては打ってこないだろう』と今度はクロスを待つところですが、水谷選手が間合いを取ったことで『もしかするともう一回くるんじゃないか』と考え、結果としてコースを絞らせなかった。実際に水谷選手は普通にクロスへ打ちましたが、許選手の反応が遅れてミスになりました」 再び伊藤のサービスを劉が返すと、水谷はクロスへ強烈なショットを放つ。ストレートが来る方向へ、ほんのわずかながら重心を傾かせていた許が体勢を崩しながら返したボールはネットにかかり、流れをつかんだ日本は一気呵成に8連続ポイントをもぎ取った。 いきなり2ゲームを連取される、敗色濃厚の流れを一変させたのも水谷だった。第3ゲームでも2-4とリードされたあたりから、卓球台から離れずにピッチとスピードで攻める前陣速攻型へとシフト。覚悟を決めた強打の連続が伊藤の武器である意外性と思い切りのよさをも引き出し、第3ゲーム以降の3ゲーム連続ゲットにつながった。松下氏が言う。