なぜ水谷隼&伊藤美誠ペアは宿敵中国を破り日本卓球史上初の五輪金メダルを獲得することができたのか
追い詰められたときほど強気に、そして冷静にプレーできる水谷の存在が安心感を与え、伊藤のストロングポイントを全開にさせる。金メダルを獲得した直後には一転して笑顔を弾けさせ、「最後まですごく楽しくて。3ゲーム目を取ってからは、自分たちの流れでこのままいっちゃえって思いました」と振り返った伊藤を、水谷は目を細めながら称えている。 「めちゃくちゃ頼りになりました。彼女じゃなきゃ優勝できなかったと思いますし、本当に僕は幸せ者です」 1988年のソウル五輪から正式競技に採用された卓球は、前回リオデジャネイロ五輪まで実施された32種目のうち実に「28」で中国が金メダルを獲得してきた。2008年北京、2012年ロンドンとあわせて直近の3大会は中国が完全制覇していた。 混合ダブルスの初代王者の証である金メダルを見つめながら、「本当に現実であってほしい」と偽らざる本音を明かした水谷は、さらにこんな言葉を紡いでいる。 「いままで中国という壁がずっと立ちはだかってきて、勝つことを目標にずっとやってきたなかできょう成し遂げて、君が代を聴けて本当に感動しました」 北京大会から4大会連続で五輪に挑み、リオデジャネイロ大会では男子シングルスで銅メダルを、男子団体戦で銀メダルを獲得するも、水谷は中国という高く険しい壁の存在を実感してきた。現役時代に株式会社チームマツシタを設立し、水谷らのマネジメントを手がけた経験もある松下氏も、悲願の金メダルを感慨深く受け止めている。 「普通の国際大会と五輪とはまったく違いますから。中国もさまざまな分析や対策を練って臨んでくる五輪で勝つことは真の勝利であり、偶然でもまぐれでもないからこそ、ものすごく価値がある金メダルだと思っています」 新たな歴史を刻んだヒーローは、勝利した瞬間にヒロインへ無意識のうちに抱きつき、あまりの強さに「痛えっ!」と嬉しさまじりの文句を言われるエピソードも残した。 ただ、戦いはこれで終わりではない。水谷は男子団体戦、伊藤には世界ランキング2位で臨む女子シングルスと同団体戦が待っている。興奮と感動の余韻を残したまま、一夜明けた27日には伊藤が女子シングルスの初戦となる3回戦に登場する。 (文責・藤江直人/スポーツライター)