移民キャラバンと日本文化の微妙な関係──外国人政策にどう影響するのか
政府、与党が、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法などの改正案の成立を目指しています。報道によると、山下貴司法相は提案理由を「人手不足が深刻化しており、即戦力となる外国人を受け入れる仕組みの構築が求められている」と説明しましたが、外国人技能実習生の失踪理由に関する法務省の調査結果が誤っていたことなどもあり、野党は批判の声を強めています。 米目指し砂漠を行く=移民「キャラバン」、国境メヒカリにも数千人―メキシコ そんな中、太平洋を挟んだ北アメリカ大陸では、中米からアメリカ国境を目指す移民集団が発生しています。建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、移民キャラバンと呼ばれるこの集団の動きに注目。日本のこれからの外国人政策に少なからず影響すると指摘します。移民は日本文化にどのような変化をもたらすのでしょうか。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
キャラバンはカリフォルニアを目指す
難民とは異なるようだ。 10月中旬にホンジュラスを出発しアメリカで働くことを目指す人間の集団は、エルサルバドルやグアテマラからも加わって次第に膨れ上がりながら、メキシコを歩いて一時は7000人(国連推計)に達したという。「移民キャラバン」と呼ばれ、ついに相当数がアメリカとの国境の街ティファナに到着した。 こんなことはこれまでになかったのではないか。 メキシコの西の果て、すなわちホンジュラスから一番遠いティファナまで行ったのは、やはりカリフォルニアを目指したのだろう。スタインベックの『怒りの葡萄』にも現れているように、カリフォルニアは常に、アメリカ中西部から、あるいはメキシコから、職を求めて移住する人々の理想郷であった。一時はゴールドラッシュもあり、労働力を必要とする鉱工業と農業が発達し、気候もよく人種も多様で、アメリカの他の地域がもつ保守性とは離れた「自由」を象徴する地であった。オレンジなど果物の栽培も盛んで、ホンジュラスの人々も働きやすい。 ティファナは、そのカリフォルニアに入る拠点としての「国境の街」であり、僕もバークレイ(カリフォルニア大学バークレイ校)にいたときに行ってみたが、国境を越えたとたんに、豊かなアメリカと貧しいメキシコの対比がクッキリと感じられた。 不思議なことは、この移民キャラバンが、不法移民の排斥を唱えるトランプ政権下で起きたことだ。反トランプ陣営が組織したという説もあるが、中間選挙ではトランプ有利に働いたのでその逆だという説もある。しかしそういった推測はどうあれ、今回、SNSが、同好の士のお付き合いではなく、人間の運命を委ねる集団の形成に使われたことに、ある種の感慨を禁じえない。インターネットが人生を決定的に変える時代なのだ。 現在は、フェンス越しに警戒態勢をしくアメリカ当局との緊張関係が続いているようだが、これからトランプ大統領がどう出るか、メキシコ政府がどう対応するか、予断を許さない。現地に赴いて実態をレポートし、隠された真実を探るといったことは、気骨あるジャーナリストに任せ、ここではこのキャラバンを、特に日本との関係において、文化論的に考えてみる。