移民キャラバンと日本文化の微妙な関係──外国人政策にどう影響するのか
外国人労働者の受け入れ増を目指す安倍政権
折から現在の日本では、深刻な人手不足を補うため外国人労働者の受け入れを増やす入管法の改正を行おうとしている。 主として経済界からの要望に応えてのことであるが、安倍政権は、野党の反対に加えて、政府内外の保守派の反対にも対応しなくてはならない。元来日本の保守には、経済発展を第一に考える「経済保守」と、国家主義を信奉する「思想保守」とがあり、先に論じた(『「2+1」の曖昧な民主主義のススメ』)中で紹介した田中秀征氏の言葉を借りれば「保守本流」と「自民党本流」にほぼ一致する。安倍首相は思想保守に近く、今回は経済保守の要求をのむかたちであるが、結果としては日本文化の根幹に触れる微妙さがある。 メキシコを歩く移民キャラバンは、ちょうどその微妙な時期にぶつかったのだ。 すでに相当の外国人が日本で働き、就労留学生や技能実習生も含め、世界4位の移民大国ともいわれる。今回の改正で拍車をかけることになるが、少子高齢化の問題を解決するためには、さらに大量の労働力が必要となる。 外国人の受け入れは人手不足のカンフル剤だ。しかし移民が増えた国は、やがてそれが大きな社会負担となることが多く、日本も相当の覚悟をもって臨まなくてはならないことはたしかである。それなりの法的社会的対応が必要だろう。
移民キャラバンは日本文化にどう影響するか
難民も移民も、平和で豊かで安定した先進国に向かうのであり、その点では日本も例外ではない。 しかし欧米とは条件を異にする面もある。少なくともヨーロッパのようには大量の難民に脅かされる状態ではなく、アメリカのようには移民が完全に定住化する可能性も高くない。 そこには日本という国の条件と、東アジアという地域の条件が、ともに作用している。日本はヨーロッパのような数百年にわたる植民地制度や奴隷制度を経験したわけでもなく、アメリカのようにほとんどが移民で構成された国でもなく、文化に比較的一体性が保たれた国である。観光客や一時的な留学生や就労者は温かく迎えるが、完全な移民となると社会制度に免疫がないことからの抵抗がある。また東アジア地域の条件として、中国や韓国や東南アジアの国々が長期的な経済発展を続け、政治的にも比較的(イスラム圏や中南米と比べて)安定していることがある。難民が出る事態が生じても、近隣の国で、もしくは中国やインドといった人口大国で受け止め、海を越えて日本まで来るということにはなりにくいのだ。 とはいえ、大量の外国人受け入れによって、これまでのような文化的均質性を保つことが困難になることは考えなくてはならない。逆に、グローバル化が進む今日、日本文化もそれに応じて変わる必要があるということでもある。 このユニークで精妙な文化の質を保ちながら、いかに異文化に対する免疫力を高めるか、われわれは、法制度的、社会制度的課題とともに、文化論的な課題も突きつけられているのだ。 ティファナに集結する移民キャラバンの今後の成り行きは、遠く太平洋を挟んで、日本という国の外国人受け入れに関する微妙な指針として作用することになる。 それにしても、国家もまた個人も、風土と歴史の中に培われた文化の力学から逃れられない運命にあると思わざるをえない。