「搾れば搾るほど赤字」円安で牛乳ピンチ 酪農家たちが探る飼料国産化への道 #生活危機
飼料代に加え、電気代や燃料代など経費も上昇
牛を育てる飼料は、トウモロコシなどの穀物を中心とした栄養豊富な「濃厚飼料」と牧草などの「粗飼料」の2種類に分けられる。乾乳期の牛は粗飼料が与えられ、搾乳期の牛には濃厚飼料が多めに与えられる。栄養豊富な餌を混ぜることで良質の生乳を搾るためだ。 だが、現在は濃厚飼料と粗飼料のどちらも価格が高騰している。 農林水産省の飼料月報によると、配合飼料の平均価格は2020年4月に1キロ67円だったが、今年7月には1キロ100円以上に上がった。さらに、粗飼料である乾牧草の輸入価格は2020年まで1キロ約40円だったが、今年9月には1キロ65円に(財務省貿易統計)。どちらも約1.5倍の上昇だ。
こうした飼料代の高騰は、コロナ禍による海上輸送の混乱や、ロシアによるウクライナ侵攻で穀物輸送が遮断され、輸入飼料が品薄になったことなどが要因だが、そこにさらに急激な円安が追い打ちをかけた。 田中さんは、円安は飼料代だけでなく、電気代や燃料代など経費の上昇にも影響していると嘆く。長く黒字経営を続けてきたが、今年はさまざまな努力にもかかわらず、1000万円ほどの赤字が見込まれるという。こうした採算の悪化は数字だけではない影響も与えている。 「2021年末に娘が結婚して、婿が牧場に入ってくれたんです。ゆくゆくは牛舎を建て直し、ロボット搾乳を導入しようと彼と話していました。ですが、今は先が見えなくなり、計画はストップ。一気に計画がしぼんでしまいました」 だが、このような苦境に陥っているのは田中さんだけではない。
「だましだまし」餌減らすも…牛への影響懸念
神奈川県平塚市で酪農を営む片倉幸一さん(44)は、現状にいら立ちつつ、声に力はない。 「うちは乾牧草と配合飼料を混ぜた餌を1頭あたり1日32キロ与えるのが基本でした。でも、今はその基準通りに与えるとコスト的に到底合わない。少しずつ量を減らしながら、だましだましやっている。牛も身を削って乳を出すので、餌を抑えると牛の体に影響する」