「搾れば搾るほど赤字」円安で牛乳ピンチ 酪農家たちが探る飼料国産化への道 #生活危機
祖父の代から平塚で酪農を営む片倉さんは、酪農系の短大を卒業した2000年に就農。収入の柱は80頭ほどのホルスタイン種から搾る生乳だ。就農当時は自給用に畑で飼料用のトウモロコシもつくっていたが、2000年代半ばから全面的に輸入飼料を使うようになった。 「当時の輸入飼料価格は今の半分以下。購入すればやっていけるイメージがありました。安い飼料を使えば、日中も休めますからね」
しかし、この数年で局面が変わった。飼料代が上がり、経費が生乳の売り上げを上回るようになってしまったという。1頭あたりの飼料代が1日2500円。対して売り上げは3000円余り。電気代や子牛の餌などの経費も入れると明らかに赤字だ。 「今はいい餌を与えれば与える分だけ、搾れば搾る分だけ赤字になってしまう。考え方を変えないといけないと思っています」
60年弱で戸数が97%減少…危機的な酪農
もとより、日本の酪農家の戸数はこの半世紀余り一貫して減り続けている。 ピークは1963(昭和38)年の41万8000戸だったが、2021(令和3)年には1万3800戸と実に97%も減少した。当時は田畑の耕作用に2、3頭の乳牛を飼育する農家が多かったためだが、戸数が減少するとともに1戸あたりの頭数は増加。現在は1戸あたり平均103.1頭にまで増えた。
酪農は合理的で効率的になり、生乳生産量は増加した。だが、1996(平成8)年の年間866万トンをピークに減少し、現在は年間730万トン前後で推移している。 生乳生産量減少の要因としては牛乳の消費量減少が大きいが、酪農家の減少、乳牛飼養頭数の減少も危機的だ。日本の乳牛の飼養頭数は2019(平成31)年2月時点で約133万頭と、ピークだった1985(昭和60)年の約211万頭の6割ほどだ。このまま乳牛が減ると、生乳生産量は確実に下がる。農水省は、1戸あたりの規模を拡大し、酪農の高収益体制の確立を目指す支援事業を実施してきた。 だがコロナ禍、ウクライナ侵攻、円安が立て続けに起こったことで、酪農家の経営環境が大きく変わってしまった。酪農経営に詳しい北海道大学大学院の小林国之准教授(47)はこう指摘する。 「今回の円安はタイミングが悪かったとも言えますが、(1戸あたりの)規模拡大路線が正しかったのかどうかも問われます」