「搾れば搾るほど赤字」円安で牛乳ピンチ 酪農家たちが探る飼料国産化への道 #生活危機
日本の多くの酪農家は、購入した飼料を牛舎の中で与えて育てる。日本で使用されている飼料のうち、濃厚飼料は87%、粗飼料は24%が輸入だ。円安になれば生産コストはおのずと高くなる。 では輸入飼料に頼らず、国産で飼料を安定的に供給することは可能なのか。 実は、国産飼料への切り替えにいち早く着手していたのが、前出の千葉の田中さんだ。使っているのはお米だ。
「お米」で輸入から国産飼料への転換探る
「お米といっても、飼料用です。ただ、飼料米を与えすぎると生乳中の無脂乳固形分の割合が減り、乳質が落ちてしまう。なので、適量を見極めるのに2年ほどかかりました」 田中さんはこう振り返る。飼料米とは家畜用に栽培された収穫量の多い品種の米のこと。通常の食用米より味は落ちるものの、栄養価はトウモロコシとほぼ同等だ。2018年の春、田中さんは地元の長南西部営農組合が飼料米を栽培していることを聞き、使用を決めた。 「営農組合は飼料米を農協に卸していたのですが、買い取り価格が安いと聞きました。だったら、うちも使わせてもらおうと」 地元農協での飼料米買い取り価格は1キロあたり5~10円ほど。田中さんは飼料米を1キロ20円で営農組合から直接買い、濃厚飼料の一部を置き換えた。
「現在は複数の営農組合から年間80トンの飼料米を買い付けていて、年間で383万円ほどの飼料代節減になりました」 飼料米は、農水省も生産拡大を期待する「戦略作物」の一つで、助成金を交付し、作付け転換を後押ししている。その成果もあり、作付面積は2022年に14万2000ヘクタールと2020年から倍増。2021年の生産量は近年で最高の66万トンになった。円安が加速し、輸入飼料が高騰してからは、代替となる国産飼料としての期待も高まっている。 ただ飼料米は、玄米の状態で与えても牛は消化できない。粉砕機で米を細かく砕く必要がある。また、飼料の種類を増やした分だけ、餌やりの回数が増えるので労力が増す。こうした手間もあるからか、本格的な広がりまでには至っていない。 粗飼料にも国産化の動きがある。稲の穂と茎をロールにして発酵させた粗飼料「稲ホールクロップサイレージ」(稲WCS)だ。田中さんは、輸入乾牧草の一部を稲WCSに置き換えることで1頭あたりの粗飼料の価格を下げられたという。70頭の搾乳牛で1日8400円、1年では300万円近くの経費削減になる計算だ。飼料米と合わせると年間で600万円以上の経費を削減したことになる。