「うどん県」香川の食卓ピンチ、小麦高騰で世界が争奪戦 ウクライナ侵攻の思わぬ影 #生活危機
看板メニューの釜バターうどん(撮影:村山祐介)
1杯200円台の安さで「うどん県」こと香川県の胃袋を支えてきたうどん。その原料の輸入小麦がさらに値上がりする懸念から、店主らが苦渋の決断を迫られている。戦時下のウクライナからの輸出が綱渡り状態で、価格が高止まりしているためだ。その影響が日本を直撃するとみられる来春に先んじて、うどんの値上げを探る動きも出ている。ウクライナで取材を続けるジャーナリストが実情を追った。(文・映像・写真/ジャーナリスト・村山祐介/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「うどん県」の家計直撃 超えられないワンコイン
夜明け前の午前6時。高松市内の讃岐うどん店「手打十段うどんバカ一代」の店先にのれんがかかるとすぐ、十数人が次々とくぐっていった。客の多くが頼むのは「釜バターうどん」(小で490円)。熱々のうどんにバターと生卵、だし醤油を絡めて食べる看板メニューで、週末には数十人が列をなす。 壁の品書きは金額部分にテープが貼られ、数字が手書きされていた。7月に値上げしたためだ。一番安いかけうどん(小)は250円が280円に、肉うどん(小)は490円が560円に。天ぷらも昨年値上げした。 昼は毎日うどんという地元の運送業、根津円さん(49)は「どこのうどん屋も上がっちょるけんね、今。困りますね、給与が上がらんのに」。毎週通う常連の会社員石塚真之さん(34)は「最初からかなり安いので、まあ値上がりは仕方ないのかな」と話す。 店長の椎名真一郎さん(47)は「看板の釜バターの小だけ据え置きにしたんです。そこだけは泣いて、上げずに頑張っています」と明かす。「やっぱりおいしくて安くて早くて、というのがうどん屋の使命というかね。ワンコイン(500円)を超えてしまうと悲しいですよね」 店側を煩わせないよう、いつも価格ぴったりのお金を持ってくる常連客もいる。「20円上がったと言うとびっくりしますし、申し訳ないな、とそのとき本当に実感としてありますね」 香川大学農学部などでつくる「さぬきうどん研究会」が8月末までに71店から回答を得たアンケートでは、3年前に277円だったかけうどんの平均価格はいま300円。今後も半数以上の店が値上げを予定していると答えたという。 実はこうした値上げにはまだ、2月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻後の小麦価格の高騰は反映されていない。1ブッシェル(約27キロ)8ドル前後だった小麦の先物価格は開戦後、14ドル超の史上最高値に。今なお2年前の4割高で推移している。 小麦の9割を輸入に頼る日本は、政府が輸入して製粉業者に売り渡す国家貿易制度をとっており、価格は4月と10月に改定されている。北米の不作などですでに過去2番目の高値にあるが、戦争の影響が直撃する今年10月はさらに2割増が見込まれていた。そこで政府が物価高対策として14年ぶりに抑制に動き、ひとまず価格は据え置かれた。