「生まれてくる子は、絶対にかわいい!」 わが子の障害を知った夫婦が、次の一歩を踏み出すまで
現実と折り合いをつけ、2人は前を向いた
とはいえ、ももこさんが大きなショックを受けていることを、望さんは感じ取っていた。キッチンでお皿を洗いながら泣いている姿を見ていたからだ。抗えない現実に直面しながらも、2人は寄り添って暮らす中で「日常」を取り戻していく。 胎児について診断を受けた数日後、望さんはテレビのバラエティ番組に出演した。この番組出演が、二人の思わぬ転機となった。望さんは、学生時代にカッコ良くなりたい一心で、両足の義足を一気に長くして失敗したエピソードを披露。そのエピソードで、大賞に選ばれた望さんの口から出たのは、「両足義足でよかったです!」という力強い言葉だった。 そのスタジオには、ももこさんの姿もあった。 ももこ「子どものことばかり考えていた時期だったので、一緒に収録に行ったことが気分転換になりました。出演している彼の姿を見ていて、すごく頼もしいなぁと思いました。そして、生まれてくる子どもと一緒に、パラリピックで活躍するパパのカッコいい姿を見たいと思いました」 前を向いたももこさんは、障害について望さんに教えてもらい、一緒に乗り越えていきたいと考えた。何よりも望さんの母親は障害のある子を育てた経験者であり、困ったことがあったら、すべて相談しよう、と。そして望さんの心の支えも、ももこさんだった。 望「ももこはすごく明るいし、前向きな性格やから、僕にわからないことは、ももこが何とかしてくれるとも思いました。義足のことでは、僕はほかの人よりずっとわかっていることはあると思うので。きっと大丈夫だ、と」 2020年、ももこさんは元気な女の子を出産した。 ももこ「生まれた子を初めて見たときは、率直に『かわいい』しかなくて。足の形もエコーで見ていたので、ある程度わかっていましたから。私の両親も兄も姉もみんなかわいがってくれて、障害があっても何も変わらないんだな、と思いましたね」
相手を知り、寄り添い、歩んでいく
東京パラリンピック出場後に、望さんは、義足でのサッカーや縄跳び、自転車などに挑戦。その様子をYouTubeで配信している。望さんのさまざまなチャレンジは、「障害があっても、いろんなことができる」という、娘へのメッセージでもある。SNSなど、いろんなものを使って“発信”して、障害のこともポジティブに受け取ってもらい、娘も含めて、みんなが生きやすい社会になればいい……。 そんな望さんの挑戦を温かく見守っている、ももこさん。ももこさん自身、望さんと出会うまでは障害のある人と接する機会があまりなく、「障害=ちょっとネガティブ、できないことがたくさんあるんじゃないか」という印象を持っていたという。 ももこ「彼を知っていくうちに障害に対するイメージがすごく変わりました。なので、相手のことを何も知らずに、『障害があるから』とか『かわいそう』とか勝手にイメージを持つのではなくて、まず相手のことをしっかり知って、知っていけば好きになって、自然と寄り添えるんじゃないかと思っています」 2歳になった娘は、おままごとやタブレットゲームで遊ぶのが大好きだ。話す言葉も増え、義足の歩行練習も続けて、どんどん活発になっている。 望「ももこは子どもに障害があることを隠そうとしないし、いろんなところにガンガン連れて行ってくれていることに、とても感謝しています。これから娘が大きくなるにつれていろんなことがあると思うけど、ママとパパがいるから大丈夫。改めて『娘の母親がももこでよかった』と思っています」