これからの日本の医療に、総合診療医とホスピタリストが必要な理由
◇総合診療が求められる理由
総合診療が「新専門医制度」の基本領域として2018年に追加された理由には、高齢化が進むにつれ、複数の病気を持った複雑な患者さんが増えたことが挙げられます。 そもそも日本では、医師の基本領域は内科、外科、精神科などといったように分かれており、さらに専門領域(サブスペシャルティ)として内科なら消化器内科、循環器内科、呼吸器内科のように臓器別に専門医の資格が分かれています。 専門医の資格を取得した先生はその分野では深い知識や技術を持っていますが、自分の専門外の領域や臓器、年齢の病気に対しては十分な対応ができないこともあります。ところが、最近の救急現場などでは、1つの専門領域のみに関わる問題を抱えている患者さんはほとんどいません。複数の臓器にまたがる複雑な病態を持った患者さんばかりがやって来るため、さまざまな臓器について横断的な研修を積んだ総合診療専門医が求められるようになったのです。 総合診療専門医の需要が高まっているのは救急外来を持つ病院だけではありません。地域の診療所やクリニックでも、総合診療専門医の需要は高まっています。ご存じのように、診療所やクリニックの多くが内科、耳鼻科、眼科といったように診療科ごとに分かれています。そして、どの診療科で診てもらうべきか判断しているのは患者さん自身です。 しかし、それが本当に理想的な医療といえるのでしょうか。患者さんは医療の専門家ではないので、見当外れのクリニックへ行ってしまったり、実際は複数の病気を持っていても医師が見つけられなかったりといったことが起きてしまうこともあります。地域の診療所やクリニックに総合診療専門医の資格を持っている医師がもっと増えれば、患者さん自身が受診する診療科に悩むことなく、適切な医療を受けられるようになるでしょう。
◇総合診療―日本とアメリカの違い
日本では、総合診療や総合内科といった総合系診療は、これから広がっていく医療です。しかし、海外では総合系診療がすでに根付いている国があり、アメリカはその代表的な存在です。私は2000年頃にアメリカのセントルイスにあるワシントン大学へ留学し、その後もアメリカの病院で働きました。振り返ると、その時期はまさにアメリカで総合系診療、特に総合内科が急速に発展したタイミングで、今思うととてもエキサイティングでした。 従来のアメリカでは、患者さんは病気になったら、まずかかりつけの開業医を受診し、入院治療をする必要があれば、その医師が契約している病院へ入院。そこへかかりつけの医師が外来の合間にやって来て治療をする、という仕組みが一般的でした。 しかし、1990年代以降、医療の発展や患者さんの高齢化が進んだことで入院治療が複雑化していき、同時に医療訴訟などに象徴されるように、質の高い医療への社会からの需要も高くなったため、医師が外来の片手間に病院で入院治療を行うことが難しくなってきたのです。先進的な病院の中には、開業医をサポートするために総合診療医を常駐させ、患者さんを開業医と共同で診させるところが現れました。結果的にこのような病院で治療成績が向上したため、病院に常駐する医師、つまり入院治療を専門とする総合診療医(主に総合内科医)が年々増えていき、今ではアメリカの病院で一般的な存在となっています。このような医師はアメリカでは“ホスピタリスト”と呼ばれています。