これからの日本の医療に、総合診療医とホスピタリストが必要な理由
◇ホスピタリストとは?
ホスピタリストは常に病院にいるので、研修医の教育においても中心的な役割を果たす一方で、経営に直接関わることも多く、医療の質に関しては無駄を省く努力をしたり、医療安全面でも医療事故を減らす仕組みを考えたりします。ホスピタリストが診るのは、目の前の患者さんだけでなく、病院全体であるともいえます。病院側もそういう人材を歓迎し、高い 報酬を払うようになったので、今ではアメリカの医療においてもっとも人気のある職種になっています。 ただし、病院によってニーズはさまざまなので、ホスピタリストの仕事内容も病院ごとに違います。それでも共通しているのは、どの病院でも患者さんを入院させている開業医をサポートし、患者さんに安全な医療を効率よく提供できることです。その結果として予後もよいし、退院も早くなっています。 ちなみに私はセントルイスのベテラン(退役軍人)病院で5年間、ホスピタリストとして働きました。私の主な仕事は研修医の指導でしたが、病院経営に直結するような仕事も多々ありました。たとえば、私が最初に院長から命じられたのは、救急外来での待ち時間を減らすため、「平均在院日数を3.8日から3.3日に減らせ」というものでした。これは実に大変なことでしたが、病室でカーテンの交換に時間がかかっていることに気付いてカーテンの保管場所を病室から遠い場所ではなく近い場所に変更する、カーテンそのものを使い捨てのものに変えるなどといった細かな時短改善策を積み重ねることで病床の回転を早める一方、患者さんを診る時間を増やし、結果的に目標を達成することができました。
◇ホスピタリストが整形外科の患者さんを診る
このように、アメリカでは総合診療医の一種であるホスピタリストが自然発生的に誕生しました。その経緯からみて日本でもホスピタリストの潜在的なニーズがあるはずですが、いまはまだ少ない状況です。その一番大きな理由は、ホスピタリストを育てる教育システムが不十分だからだと思います。 ちなみに私が院長を務める板橋中央総合病院では、総合診療専門医を救急科と統合して、救急総合診療科と院内標榜して配置しています。また、それとは別に総合内科もあります。 救急総合診療科では、主に救急外来で患者さんの診療にあたっています。複数疾患のある複雑な患者さんが多いため、そのまま入院治療を行うこともあります。どこの病院でも同様ですが、救急外来にいらした患者さんは、元々の施設や自宅に帰れなくなることが多いため、総合診療医はリハビリテーションにも積極的に介入し、退院までの診療にも注力しています。また、救急外来で待っているだけではなく、最近退院した患者さんや救急外来から入院せずに帰宅した患者さんなどには積極的に電話などでフォローし、必要あれば当院の救急車を出してお迎えに行くこともあります。これら全て総合診療医の仕事です。 一方、総合内科では、米国式のホスピタリストに近い仕事を担ってもらっています。 たとえば、整形外科の患者さんは、整形外科と総合内科が一緒に診ています。整形外科にいらっしゃるご高齢の患者さんは骨折でお亡くなりになることはありませんが、骨折に合併した肺炎や肺塞栓症のような内科の病気のほうが怖いという側面があります。そのため、米国ではホスピタリストが整形外科の患者さんの全身管理を行い、整形外科医は手術に専念する、というシステムをとっている病院が少なくありません。 当院ではこのシステムを2019年から導入しています。手術以外の全身管理を総合内科の医師が行う体制にしたところ、内科的な病気による事故がなく対応できるようになりました。さらに、導入した年はたまたままったく別の理由で整形外科の医師が半減したにもかかわらず、手術の件数はむしろ増えており、整形外科医が手術に集中して効率的に治療を行えるようになったことが分かりました。思っていた以上の成果が出たと思います。