【社説】マイナ保険証 円滑な併用に力を尽くせ
国民が制度を信頼していないのに、政府は普及を急ぎ過ぎた。不信感を解消しないことには、この先も利用者はなかなか増えないだろう。 現行の健康保険証の新規発行が、きのうで停止された。政府はマイナンバーカードに保険証の機能を加えた「マイナ保険証」への切り替えを推奨している。 さまざまな普及策に多額の公費をかけたものの、国民の反応は芳しくない。 マイナカードは、買い物などに使えるポイントを付与するキャンペーン効果もあってか、10月末時点で国民の4分の3が保有している。このうち8割強はマイナ保険証の利用登録を済ませた。 ところが、医療機関や薬局での利用率は10月で15・67%にとどまる。低迷している理由は明らかだ。 他人の情報が誤ってひも付けされるといったトラブルが全国で相次ぎ、個人情報の取り扱いに対する不安、不信感が拭えないからである。 福岡県保険医協会などが今年夏、県内の医療機関を対象にアンケートをしたところ、回答者の約7割がマイナ保険証に関して「トラブルがあった」と答えた。 マイナ保険証を読み取るカードリーダーの認証エラー、名前や住所が正しく表記されないなどだ。「現行の保険証を残すべきだ」と7割超が回答している。医療現場にも、マイナ保険証への一本化に懐疑的な見方が根強い。 現行の健康保険証の廃止は2022年10月、当時の河野太郎デジタル相が唐突に表明した。医療機関や自治体への配慮を欠いたまま進めたことが、ミスの増加や混乱に拍車をかけたのではないか。 トラブルの詳細を見ると、マイナ保険証のシステムは完全でないことが分かる。医療機関の窓口でマイナ保険証が使えず、医療費の10割負担を請求された事例もある。政府は患者や医療現場が振り回された事実を省みるべきだ。 新たな保険証の発行停止に戸惑う人がいるかもしれないが、保険診療はこれまで通り受けることができる。 発行済みの保険証は最長で1年間使える。マイナ保険証がない人には保険証代わりの資格確認書が届く。申請は不要で、最長5年間は有効だ。当面は併用が続く。 医療分野のデジタル化には利用価値への理解と信頼が欠かせない。 マイナ保険証を使うと、複数の医療機関を受診した際、医師や薬剤師が診療歴や薬の処方歴を相互に確認でき、より適切な医療の提供につなげられる。検査の重複、薬の危険な飲み合わせを避けることも容易になる。 まだ最新情報が反映されるまでに時間がかかるようだ。利点を分かりやすく伝える工夫を求めたい。 そもそもマイナカードの取得は任意である。それを前提に、政府は医療現場の混乱を防がなくてはならない。
西日本新聞