「ンン!」「ア!」意思に反して身体が動き、声が出る<トゥレット症>。とにかく体力を消耗、ときに骨折も…当事者が語る日常生活での「負担」
◆日常生活での困りごと チックによって感じるこうした身体の不快感以外にも、この症状が続くことによって生まれる日常生活での困りごとがたくさんあります。 たとえば、僕のように重度の運動チックを持っている場合、日々の満員電車は地獄以外の何物でもありません。 混んでいる電車内で勝手に腕などが動いたら、隣の人にドーンと身体が当たってしまうかもしれません。ひどいときは、気が付いたら、友人の腕や肩をバーンと叩いていたこともありました。 どんなに気を付けていても、チックの衝動が込み上げてきたら、たいていの場合は止められません。 だから、「いつ症状が出てしまうんだろう」と考えると、ドキドキして、電車に乗るだけでもひどいストレスにさらされます。 そのほか、日常生活で困ることの一例は、手がチックの症状で震えてしまうため、きれいに文字が書けないこと。 さらに、手を机などに打ち付けてしまうので、文房具を壊してしまうこともしょっちゅうです。 僕は絵を描くのが趣味で、デジタルで絵を描くペンタブ専用のペンを使っていたのですが、ひどいときは1日2本ほど壊してしまうことがありました。 デジタルペンは安くても2000~3000円するので、1週間に5000~6000円分くらいペン代に費やすことも……。 鉛筆で書けば安く済むのかもしれませんが、鉛筆だとますます芯も折れやすいし、折れた鉛筆を削るのも一苦労なので、デジタルペン以外はなかなか使いづらいのです。
◆「バカ」などの言葉が出てしまう「汚言症」も症状のひとつ そうした社会生活での不便さのほか、意外と厄介なのが併発症です。 トゥレット症には、チックの症状以外にもなんらかの併発症が含まれることが多いのですが、類にもれず、僕にもADHD(注意欠陥・多動性障害)や強迫性障害などの併発症があります。 特に困るのが、強迫性障害です。これは、やらなくてもよいような行動を、ついやりたくなってしまう衝動のこと。 たとえば「鍵を閉めたか、閉めてないかが常に気になってしまう」「ガスの火を消したか、消してないかを何度も確認しに行ってしまう」などが代表的な例です。 そして、僕の場合は、「やってはいけない状況で、やってはいけないことをしたくなる」という、悪魔的な強迫性の衝動があります。 一時期とても困ったのが、目の前にいる人に対して、突然中指を立てたくなってしまう衝動です。 ご存じの通り、相手に中指を立ててみせれば、当然相手の心証が悪くなります。僕の病気について知っている人でも、「なんでいきなり中指を立てられなきゃいけないの?」と戸惑っている姿を、何度も見たことがあります。 最近は、その衝動が浮かんだときは、中指以外の指も伸ばして、ストレッチをしているように見せかけてフォローしていますが、無意識のうちに中指を立てていないかという不安はいつもつきまとっています。 それだけでなく、「バカ」「死ね」などの汚い言葉を口にしてしまう「汚言症(おげんしょう)」なども、僕が持っている病気のひとつ。 僕の病気について知らない人の前で出てしまったら、「ケンカを売られたのか?」と誤解されてもおかしくありません。 こうした症状は、周囲とのコミュニケーションに大きな亀裂を生むため、僕を含むトゥレット症の当事者が社会生活を送るうえで非常に大きなハードルになっています。 ※本稿は、『トゥレット症の僕が「世界一幸せ」と胸を張れる理由』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
酒井隆成
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