「父との電話で涙があふれました…」 コロナ禍で一人暮らしの大学生が追い込まれる孤独
そして7月半ば、「限界」を迎えた。これまで実家の母親に電話をしても、心の苦しさを打ち明けることはなかった。だが、この日は気持ちが「いっぱいいっぱい」になり、電話をかけた。 「母が『もしもし』と電話に出たものの、何を言っていいかわからなくて、『オンライン授業の課題が多くてさ』みたいな愚痴を言っているうちに、様子が変なのが伝わったのか、母から『大丈夫? 最近電話してこなかったから心配してたよ』と言われました」 本当は「帰りたい」と言いたかったが、なかなか言いだせなかった。いろいろと話しているうちに、「迷惑かもしれないけど、もう限界だから帰りたいんだけど」という言葉が出た。 「そしたらお母さんは『帰ってきていいよ』って。お父さんも『車で迎えに行くよ』って言ってくれて。その瞬間、うれしくて涙があふれました」
電話で気持ちを吐き出せたからか、櫻井さんはすぐには帰らず、8月に帰省した。実家に滞在するうちに沈んだ気分は回復していった。妹と弟と両親のいる実家。10日間ほど過ごすうちに本来の自分を取り戻していった。 9月からの後期もオンライン授業は続いたが、週に2、3回キャンパスに行けることになり、気分は少し楽になった。また、家庭教師のアルバイト日数を減らして、負担を軽くした。最近は追い詰められる前に手を打とうと意識しているという。 「前期にきつかったのは、人と会う機会が極端に減って、ワンルームの狭い部屋で生活が完結していたこと。すごく息苦しかった。最近は親によく電話しているので、今のところは大丈夫です。ただ、また感染者がすごく増えて緊急事態宣言が出てしまったので、これからどうなるのだろうと不安ですが……」
ねぎらいと共感が大切
うつ的な症状を示す学生にどんな声をかければいいのだろうか。筑波大学医学医療系臨床医学域教授で、災害・地域精神医学が専門の太刀川弘和さんは、「大変な状況だからつらいのは当然だよね」など、まずねぎらいと共感を示すことが大切だと話す。すると、声をかけられたほうは抱えているつらさを少し解放することができる。ただしこれは、ストレスを感じていると自分で言えて、食事や睡眠がある程度取れている人への対応の仕方だという。 何事にも興味が持てず、憂うつで仕方がない状態が2週間以上続いている場合は、医療的な「抑うつ状態」になっている可能性もある。その場合は、精神科や心療内科など医療機関を頼るべきだと太刀川さんは言う。そのうえで、そうした気持ちのときには人生に関わるような選択を避けるべきだと指摘する。 「抑うつ状態にあるとき、たとえば大学をやめるかどうかといった大きな選択はしないほうがいい。ほとんどの場合、ネガティブな選択をしてしまいますから。閉鎖環境の影響で抑うつになっているのなら、まずその症状を改善したほうがいいでしょう」