「光る君」衣装デザイン 手探りで決めた平安のイメージカラー 日本画家、諫山宝樹さん
中島さんは昨年12月1日、NHK京都放送局で行われたトークショーで諫山さんと登壇し、「俳優さんたちが衣装の重ねの組み合わせにとても感動して喜んでくれた」と明かした。放送が終わるたび、交流サイト(SNS)で感想や考察をつぶやく人も増えて、アートや古典文学愛好者にも受け入れられ、ドラマは盛り上がりを見せた。
「昔の人の暮らしにチューニングを合わせるのが好きだ」。満月の夜、キラキラ光る京都御所の瓦屋根を眺めたり、鴨川の河原で周りに見える人工物を頭の中で消したりして、昔の景色に身を置く妄想が楽しい。そんな素質が色への想像力をかき立てたのだろう。
昨年10月初旬、最後の衣装デザインを手放し、2年半に及ぶ生みの苦しみから解放された。「全員が妥協なく臨んでいる現場は本当に面白くて、勉強になりました」。笑顔の中に一抹の寂しさをにじませた。
■時代絵巻描き 撮影所で評価
NHK大河ドラマ「光る君へ」で衣装デザインを担当した諫山宝樹さんの本業は日本画家だ。子供のころから絵を描くことが好きで、幼少期から高校卒業まで絵画教室に通った。「勉強は好きじゃないし、運動ができるわけでもない。絵によってアイデンティティーが構築された」と振り返る。
高校2年のとき、上村松園の「焔(ほのお)」を見て、その美しさに衝撃を受けた。嫉妬に狂う六条御息所(源氏物語の主人公の恋人)を題材にした作品だ。松園の孫の日本画家、上村淳之さん(昨年11月死去)が京都市立芸術大で教鞭(きょうべん)を取っていることを知り、1浪して同大日本画専攻に進んだ。
当時、同大の日本画は洋画のような厚塗りタッチが主流。これにはなじめず、模写にはまった。幼いころ、塗るのがもったいなくて塗り絵を模写していたというから、当然だったかもしれない。
打ち込んだのは描かれた往時の色彩を再現する「復元模写」ではなく、退色した色調や剝落(はくらく)などを忠実に写す「現状模写」。「源氏物語絵巻」や「両界曼荼羅」などを手がけ、卒業制作には「風神雷神図」(俵屋宗達)の雷神の模写を選んだ。