「他の日本人より賢く、自由で攻撃的」山本五十六とポーカーをした米海軍要人が「日本脅威論」に傾倒したワケ
● ザカライアスの日本脅威論を せせら笑うFBI長官 1ヵ月後、そんなカードゲームの後で自分のオフィスに戻ったザカライアスは、日本のスパイの脅威に対抗する最善の方法を思い付いた。 山本や日本大使館の職員は、アメリカ海軍について学ぶために質問をしてきた。彼らは何も違法行為はしておらず、たとえやっていたとしても、外交特権があるので逮捕されることはない。 しかし今後、日本はアメリカにスパイを送り込んでくるであろう。だが海軍は、これに対処するための特別な人員配置はしていない。自分の懸念が現実になった場合、FBIの協力を必要とするだろう。 ザカライアスはこのテーマについて話し合うため、FBI長官J・エドガー・フーバーとの面会を要請した。フーバーはその後およそ50年にわたり、この職に君臨することになる〔1924~72年〕が、当時はまだ着任したばかりだった。ザカライアスはフーバーに対し、「日本は合衆国にとって最大の脅威となるでしょう」と意見を述べた。 フーバーは、その発言を聞いてせせら笑い、君は本当に、合衆国が日本の脅威にさらされていると考えているのかね、と尋ねた。共産主義者よりも?シカゴのギャング抗争よりも?それとも全米を駆け巡る銀行強盗よりも? ザカライアスは体内の血が沸騰するのを感じ、身を乗り出した。日本脅威論について、人々を説得することには慣れていたが、笑われることには慣れていなかった。彼は熱くなって答えた。 「銀行強盗は問題ですが、日本は合衆国という国家を脅かすものですよ」 こんなやり取りを1分ほど行った後、フーバーは大柄な助手を呼び出した。会議の予定は1時間だったが、始まってからわずか10分で、その男はザカライアスの腕をつかみ、フーバーのオフィスからつまみ出した。 ザカライアスはこの侮辱を忘れなかったし、ザカライアスに対するフーバーの低評価も、FBI中に浸透した。それから10年後(編集部注/1938年を指す)、来るべき日本軍の攻撃を予測するべく、海軍とFBIが協力すべきだった時期に、これが災いすることになるのである。
ロナルド・ドラブキン/辻元よしふみ