「他の日本人より賢く、自由で攻撃的」山本五十六とポーカーをした米海軍要人が「日本脅威論」に傾倒したワケ
桑原はラトランドに身を乗り出し、芸者の1人をじっと見つめた。「ラトランドさん、どちらがお好きですか?」と彼は言った。「日本の女性?それともイギリスの女性?」 ラトランドは「みんな好きだよ!」と答えた。一座の男たちは皆、笑った。 ● アメリカ海軍情報局極東部長宅に 「ヤマモト」から突然の電話 エリス・ザカライアス(編集部注/アメリカ海軍情報局極東部長)とクレア(編集部注/ザカライアスの妻)は、何度か日本大使館のパーティーに招待されたことがあった。パーティーは仰々しいもので、出席している日本人たちは保守的かつ少し堅苦しく、ザカライアスに明白な取引を持ち掛けてくることが専らだった。 「ザカライアス中佐、あなたの新しい任務はどういうものですか?」だとか、「アメリカの新型戦艦の主砲の命中精度はどんなものですか?」という具合だ。 ザカライアスはこんな質問を受けて笑ってしまった。彼らの質問はあまりに芸がなく、これで機密を教えてもらうのは無理だろうと思われた。 1928年のある日、情報局の仕事で疲れ切ったザカライアスは、一日を終えて帰宅した。彼が望んでいたのは平和なディナーをとり、息子のエリス・ジュニアと少し遊ぶことだけだった。しかし、玄関で彼を出迎えたクレアがこう言ったのである。 「珍しい電話がかかってきたわよ。ヤマモトと名乗る日本人で、あなたとは横浜にいた頃からの古い友人だ、と言っていたわ」 「ヤマモト?」と彼は応えた。山本という姓は、日本では割にありふれた名前で、彼は複数の人物を知っていた。しかし彼は、それがある山本〔山本五十六〕であることに気付いた。「海軍大佐の?」と彼は尋ねた。 「だと思う。彼はとてもおしゃべりで、かなり長く話していたわ。それで、こんなことを言っていたのよ。いきなり家にお電話するのは不躾と思いますが、これがご主人を見付けられる唯一の方法ですから、と。それで、彼の家にあなたを招待して、一杯やりながらトランプのゲームがしたい、というのよ」 ザカライアスはこのニュースを重要なものと受け止めた。もちろん、暗号解読室(編集部注/ザカライアスは、アメリカ海軍省内で、日本海軍の暗号解読部署を率いていた)の電話番号は公開されていないので、山本が彼のオフィスに連絡を取ることはできない。しかし山本は彼の動きを観察しており、彼の任務について知っていることは明らかだった。そこで彼は山本に電話をかけ、何を考えているかを確認した。