「他の日本人より賢く、自由で攻撃的」山本五十六とポーカーをした米海軍要人が「日本脅威論」に傾倒したワケ
● 山本の言動と薄ら笑いから 日本海軍の攻撃的な戦略が見えた 山本は指を2本〔左手の人差指と中指〕、失っていた。残った指でカードをめくる様子は風変わりに見えたが、彼はこの特技を披露することを楽しんでいるように見えた。 他のアメリカ人の客がそれに感心すると、彼は大声で笑い、説明した。この失われた指は、日露戦争中に日本の旗艦・三笠に命中したロシアの砲弾によるものですよ――〔山本が実際に乗っていたのは装甲巡洋艦「日進」〕。 ザカライアスは、山本が薄ら笑いを浮かべているのに気付いた。ロシアの艦船を海の藻屑にした戦い〔日本海海戦〕をアメリカ人に想起させているのだ。 ザカライアスは日本にいた時、海軍士官たちと交わした議論を思い出していた。山本は他の誰よりも攻撃的だが、ある意味、日本の海軍士官たちは全員が攻撃的だった。 彼の考えでは、江田島〔海軍兵学校〕が施す訓練は、日本海軍の歴史、正しい礼儀作法、そして攻撃に焦点を当てるものだ。その教育では、日本の海軍士官たる者は、御国のために命を犠牲にすることこそ名誉なことである、と強調していた。 一部の国でもそのような教育をするが、単なる建前であることが多い。しかし、ザカライアスは知っていた。日本軍はあらゆることを極端に行う。そしてそれは、将来の平和にとって良い兆候ではない。 ザカライアスのポーカーの腕前は、非常に上手いものだった。しかし、山本五十六は勝手が違った。ザカライアスはこう述べている。 「多くの日本人は、たとえ無害なカードゲームであっても、負けると面子が失われると感じ、恥ずかしがる。しかし山本は、彼を倒そうとする私の試みを高く評価してくれた。私は山本について、オープンな挑戦をする人であり、好戦的な人物である、と感じた」 ザカライアスはさらに言う。こうしたゲームを通じて「私は日本が海軍の技術開発において、どのような方向に進んでいるのかを初めて認識した。水上戦力と航空戦力を組み合わせた航空母艦こそ、山本の執心の対象だった。この初期の時点でも、山本が艦載機で米国などの敵をいかに攻撃するつもりであるか、正確に理解するのは容易であった」。 ザカライアスは海軍や合衆国政府の上層部に、日本の脅威について説いてきたが、無視された、と感じていた。彼らは戦争の可能性についてまったく見識がなく、それでは彼の努力は無駄になってしまうのだ。