「他の日本人より賢く、自由で攻撃的」山本五十六とポーカーをした米海軍要人が「日本脅威論」に傾倒したワケ
● 山本五十六が非凡な手腕を 発揮した“ポーカー外交” 山本とザカライアスはこれまで、お互いのことをそれほどよく知る仲ではない。しかしザカライアスは、山本に関する評判を聞いていた。つまり、他の日本人よりも賢く、より自由な思考を持ち、さらに攻撃的である。そして山本は、おそらく日本海軍をリードする最高幹部の1人になるであろう――。 日本海軍の同僚の多くが、戦艦のことばかり考えていた時、山本は航空機に熱心に取り組んでいた。 山本は妻子を日本に残し、単身でワシントンDCに来ている〔1925年から駐在武官〕ため、このパーティーの趣旨は、他の同僚たちが主催したようなものではない。 つまり、あなたをフォーマル・パーティーに招待するのではない、と山本は言った。ホステスを務める妻がいないので、これは、数人の男性が集まってカクテルや、トランプのデッキを楽しむような、より親密な集まりになるでしょう――。 山本はこのような集いで、他の武官たちとはまったく異なる方法で、鋭く洞察力に富んだ質問をしてきた。 山本は、艦艇数や艦載砲の射程について質問することはない。彼は航空母艦の威力を強く信じており、桑原とラトランドの取り組みも監督していた。山本の質問は戦略的で、空母の運用方針、通常爆撃と比較した雷撃(編集部注/航空機による魚雷攻撃)のメリット、といったテーマに踏み込むものだった。低レベルの質問事項は下級の将校に任せ、意に介さない。 ザカライアスは少し不安を感じながら、アルバン・タワーズにある山本のアパートメントに近付いた。ドアが開くと、案の定、そこにいたのは数年前に日本で会ったのと同じ、ずんぐりして眉毛が濃い男、山本五十六だった。山本は満面の笑みで挨拶したが、ザカライアスは微笑みの中に、高圧的な雰囲気を感じ取った。 山本は彼を室内に案内し、カクテルを勧めた。飲酒は控えめだった。副官が、日本料理とアメリカ料理を組み合わせた料理を出した。山本はポーカーをプレーする気満々のようで、テーブル上が〔皿が片付けられて〕空くか空かないか、というタイミングで、すぐにそれが始まった。山本はベッド(賭け)とブラフ(はったり)の合間に、海軍の問題に関する質問をちりばめたが、その内容は微妙なものだった。