不安障害とは何か~不登校との関連性【専門クリニックから見た最前線】
不登校は現代の日本社会が抱える重要な教育問題の一つです。文部科学省の最新の統計によると、2023年度の小中学校における不登校児童生徒数は34万6482人に達しました。この数字は、前年度から4万7434人(15.9%)増加し、11年連続で増加して過去最多を記録しており、全児童生徒1000人当たりの不登校児童生徒数は37.2人となっています[1]。
このような不登校の増加の背景には、さまざまな要因が考えられますが、中でも不安障害は特に注目すべき要因の一つです。不安障害は児童期に発症する精神疾患の中で最も一般的なものの一つであり、その有病率は研究によって10~30%と報告されています。特に女児の方が男児よりも多く、特定の恐怖症、パニック障害、広場恐怖、分離不安障害では、この性差が顕著であることが報告されています[2]。 不安障害と不登校の関連性については複数の研究が重要な知見を示しています。例えば、国立国際医療研究センター国府台病院で行われた660人を対象とした研究では、不安障害と診断された児童生徒の66%が不登校を呈していたという報告があります[3]。これは他の精神疾患と比較しても高い割合であり、不安障害が不登校の重要な要因の一つであることを示唆しています。 さらに、この関連性は国際的な研究からも裏付けられています。インドのAsha Hospitalで行われた研究では、不登校を主訴として来院した児童生徒の91%に何らかの精神疾患が見られ、そのうち不安障害が18.2%を占めていました[4]。この研究結果からも、不安障害が不登校の主要な原因の一つであることが確認できます。
◇不安障害とは何か
本章では、まず通常の不安と病的な不安の違いを理解し、不安障害の具体的な症状と特徴について説明します。 私たちの誰もが、時に不安を感じることがあります。子どもたちにとっても、不安や恐れは発達過程における自然で適応的な部分です。例えば、12~18カ月の乳児が見知らぬ人を怖がったり、2~4歳の子どもが雷や稲妻を怖がったりすることは、むしろ正常な発達の一部と言えます。こうした不安は、安全を保証するための自己防衛行動の育成に重要な役割を果たし、子どもの発達にとって適応的な意味を持っています。 しかし、その不安が子どもの発達段階から見て予期せぬ程度に強く、周囲からの励ましやサポートがあっても持続し、日常生活に著しい支障を来している場合、それは病的な不安、つまり不安障害として捉える必要があります[2]。 不安障害の症状は、その下位分類(後述)によって詳細は異なりますが、主に以下の三つの側面で表れます: 1. 心理的症状 過度で制御困難な心配や不安が持続的に存在し、将来の出来事に対する強い懸念を伴います。また、常に落ち着きのなさやいらいら感を感じ、それにより注意力や集中力が著しく低下することがあります。 2. 身体的症状 自律神経系の活動が進行することで、動悸や心拍数の増加、発汗、手足の震えなどが表れます。また、めまいやふらつき感、過換気症状、吐き気や腹部不快感なども特徴的です。多くの場合、入眠困難や中途覚醒といった睡眠の問題を伴い、十分な休息が得られにくくなります。 3. 行動的症状 不安を感じる状況を意識的・無意識的に回避するようになり、必要以上の安全確認行動が増加します。これらの変化により、学業、対人関係など、日常生活や社会生活における機能が徐々に低下していきます。 不安障害の発症年齢については、その種類によって特徴的な傾向が見られます。選択性緘黙(かんもく)は2~4歳という早期から、分離不安障害と特定の恐怖症は約7歳での発症が多く報告されています。学校恐怖については、5~6歳と10~11歳という二つのピークがあることが知られています[2]。全般性不安障害は学齢期、特に7歳頃での発症が多く、社交不安障害が診断可能となるのは早期思春期が多いとされています。パニック障害は後期思春期での発症が典型的です[2]。 このように不安障害の特徴を理解した上で、次章では不登校との具体的な関連について見ていきます。