【相撲編集部が選ぶ名古屋場所4日目の一番】連勝が止まったうえにまた故障。元大関の朝乃山に試練襲う
相撲というのは、常人には想像もできないような圧力を掛け合う中でのせめぎ合いがある競技
一山本(押し倒し)朝乃山 道の途中で、また試練だ。 きのうまで3連勝と白星を並べていた朝乃山が、一山本に押し倒されて土(ちなみにこの日は、きのうまで5人いた幕内の全勝力士のうち4人に土がつき、全勝は照ノ富士のみに。優勝争いは徐々に照ノ富士の独走気配も漂ってきた)。しかもそればかりか、朝乃山は倒されたときにこれまで痛めていた足とは逆の左足を痛めてしまったようで、あす以降の出場も危ぶまれる事態となった。 小結だった先場所は場所前の巡業の終盤に右ヒザ側副靭帯を痛めて全休、東12枚目に番付を落として臨んだ今場所。朝乃山にとっては、右ヒザをがっちりとテーピングで固め、本来の動きとまではいかない中でも、何とか相手の動きについていきながら白星を重ねていた最中だった。 この日の相手は一山本。今場所は2日目から突っ張りだけにこだわらず、組みながらでも前に圧力を掛けて攻める相撲を見せており、調子を上げていた。立ち合い。朝乃山も当たっていったが、勢いでは一山本が勝った。少し突いた後、一山本はこの日も勢いを保ったまま、前傾姿勢になって右を差しつつ前に出る。この圧力にはさすがの朝乃山も押された。こうなると、右ヒザを痛めているので、どうしても左足一本で踏ん張ろうとする形になる。一山本が前傾姿勢のままのしかかってきたとき、左ヒザが入り、朝乃山は不自然な形で倒れることになってしまった。 土俵に倒れた朝乃山は、一度自力で立ち上がろうとしたが果たせず、這って土俵を降りると、車イスで花道を下がっていった。 医務室で本人と話した師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)によると、「ヒザですね。MRIを撮ってみないと分からないですね。(あしたからの出場は)難しいと思う。しっかり治さないと」と、ちょっとあしたからの出場は厳しそう。そうなると、番付は下に5枚しかなく、来場所の十両陥落は濃厚だ。 朝乃山は、大関の地位にあった令和3年5月に新型コロナウィルス対応ガイドライン違反が発覚、6場所出場停止の処分を受け、一時は三段目まで番付を落としながら、その後は心を入れ替え、大関復帰を目標に掲げて復活の道を歩んできた。三段目で優勝、幕下を通過し、十両優勝、幕内に復帰して12勝を挙げた昨年5月場所までは復活ロードは順調で、目標の大関復帰も近いうちに十分あり得るかと思われた。 しかしその後は、さまざまな故障に襲われるようになる。昨年7月場所に左上腕二頭筋を痛めて途中休場。この時は終盤再出場しての4連勝で勝ち越す執念を見せたが、11月は場所前に左ふくらはぎを痛めて初日から休場、途中から出場したが4勝止まり。今年に入って1月場所は初日から7連勝しながら右足関節捻挫で途中休場、再出場するも9勝止まり。5月場所が前述の通り全休、そして今回のケガ、という具合だ。 特に幕内というハイレベルなところで取っていればそうだと思うが、相撲というのは、常人には想像もできないような圧力を掛け合う中でのせめぎ合いがある競技。元気な体でもギリギリの戦いであることは想像に難くなく、どこかを故障しているのであれば、そこをかばうことでしわ寄せがきて、ほかの部分を痛めてしまう、というのはなかなか避けがたい話だろう。 残念ながら朝乃山も、大関復帰への道の途中で「どこかを故障→無理して出場→別な個所を故障」の厳しいスパイラルにハマってしまったという感じはある。自分より年下の力士に次々と先を越され、目標の大関復帰のために残された時間はだんだん少なくなってきた、というのも客観的には事実だろう。だが、見方を変えれば、力があるのに番付を下げたときとは違って、ここからが本当の不屈の魂の見せどころ、ともいえる。まずはしっかりとケガを治して悪いスパイラルを断つことが第一。そこからまた立ち上がる雄姿を、ファンはみんな見たいと思っているはずだ。 【相撲編集部が選ぶ名古屋場所4日目の一番】この日から登場の霧島が危なげない取り口で「大関初白星」。3関脇の壁に浮上? 文=藤本泰祐
相撲編集部