災害で身元特定の決め手 知られざる「歯」の重要性と、急がれるデータベース化 #知り続ける
東日本大震災のときはカルテが消失した医院が多数あったため、レセプトを手掛かりに身元を特定したケースもあったという。すでに歯科医院が提出したレセプトを活用するので、医院に大きな負担がかからないというメリットもある。 さらに柳川氏はこの二つの構想以外に、小学校や中学校に義務化されている歯科健診結果のデータベース化も検討している。全体からすると少数だが、歯科医院に通わない人もいる。その人が死亡したとき、こうしたデータを身元特定につなげる考えだ。
実現に向けての大きなハードル
ただし、実現には大きなハードルがある。まず、どこが歯科医院のカルテデータを保管するかという問題だ。一つ目の構想では第三者機関となっている。データ量が膨大なため、各都道府県の歯科医師会での保管は難しいという。 二つ目のレセプトを活用する構想でも、データ量は膨大になる。保管先として第三者機関のほかに、遺体の身元確認を行う警察庁や、診療報酬を扱う厚労省などが想定される。 警察庁に保管先となるのか尋ねたところ、「厚労省において大規模データベース構築に向けた施策の検討等を行うこととされているものと承知している」。厚労省にどこが管理すべきか尋ねると「データベース構築に向けた制度面の課題を整理して参ります」との回答だった。
預かるデータ量が多ければ多いほど、維持管理費が膨らむ。費用は誰が負担するのか、税金を投入するのか、まだ固まっていない。近年、医療機関を狙ったサイバー攻撃も多発しており、厳重なセキュリティーも求められている。 さらに国民の感情もある。災害時の身元確認に使うとはいえ、デリケートな個人情報を第三者機関がもつことに抵抗がある人もいるだろう。事前に法改正が必要との指摘もある。柳川氏はこう話す。 「個人情報保護法に基づくルールは厳格に守らなければなりません。法律の専門家にも協議会に入って頂き、検討しています。一方、南海トラフ地震などの大規模災害では、津波で多くの犠牲者が出ることが想定されています。いざというとき、ご遺体の身元を迅速に特定し、ご遺族にお渡ししなければなりません。データベース化の必要性を丁寧に説明していく必要があります」