災害で身元特定の決め手 知られざる「歯」の重要性と、急がれるデータベース化 #知り続ける
2012年1月に生前のカルテが見つかり、デンタルチャートとの照合の結果、遺骨は久子さんと判明。長男(54)に手渡された。 長男はこう語る。 「いまだに行方不明の方がいらっしゃるので、母のように遺骨が戻ってくるだけでもありがたいことです。ただ、理想を言えば、遺骨ではなく遺体と対面したかった。私も必死に捜したのですが……遺体の身元がスムーズに判明するシステムができることを望みます」
データベース化の二つの構想
歯科カルテのデータベース化については、これまでもたびたび必要性が指摘されてきた。1985年の日航ジャンボ機墜落事故や95年の阪神・淡路大震災でも損傷の激しい遺体が多く、「歯」から身元が特定されたケースが目立ったからだ。 「災害が起きてからカルテを集めるのではなく、歯科情報をデータベース化して備えるべき」――こうした声が歯科医師らから高まっていた。
東日本大震災で歯科医師の派遣など陣頭指揮を執った日本歯科医師会の柳川忠廣副会長も、その必要性を痛切に感じていた。2013年から厚生労働省や大学の研究者らとの協議会を立ち上げ、データベース化に向けて議論を重ねている。現在どこまで進んでいるのか。 柳川氏によると、「大きく二つの構想が固まった」という。 まず一つは、それぞれの歯科医院にある電子カルテの内容を第三者機関に集約させる構想だ。歯科医院は現在、全国に約6万8000あり、一日平均140万人が通院している。個々の患者のカルテにはすべての歯の状態や最新の治療内容が記載されている。患者の同意が得られた場合、各歯科医院からカルテの内容を第三者機関に送り、保管してもらう方法だという。 もう一つは、より大規模なものだ。全ての歯科医師は患者の治療後、レセプト(診療報酬明細書)を作り、社会保険や国民健康保険などに毎月請求している。このレセプトを活用するという。 「カルテほどの情報量はないのですが、レセプトにも治療内容が入っています。例えば右下の奥歯をどのように治したとか、左上の奥歯に何をかぶせたとか。また歯のない場所も書かれています。レセプトから分かるのはこれらの範囲ですが、それでもかなりの絞り込みはできると思います」(柳川氏)