なぜ女子ジャンプ日本のエース高梨沙羅はメダルに届かず4位に終わったのか…荒れた風と不完全なテレマーク
今季のW杯で1勝しかしていなかった高梨にとってみれば、V本命候補が不在の混沌とした状況はチャンスだった。W杯個人総合で首位に立っていたマリタ・クラマー(オーストリア)が新型コロナの陽性反応が出て欠場を余儀なくされ同じくオーストリアのベテランのジャクリーン・ザイフリーズベルガーも新型コロナの陽性反応で北京五輪の舞台に立てず、高梨に立ちはだかる名門チームが姿を消していた。 ”女王”マーレン・ルンビ(ノルウェー)も太りすぎて体重管理が難しくなり、今季のW杯現場には戻ってこなかった。 その状況の中でも勝てなかった高梨は、「試合に出させてもらったことは、すごくうれしいことですが、この結果を受け入れているので、もう私の出る幕ではないかもしれないな、との気持ちもあります」と、弱気の発言を残した。 この4年、悲願の金メダル獲得のために取り組んできた着地でのテレマークがうまくいかなかった。高梨は2本目に最長不倒を飛んだものの上位4人のうち、飛型点はワーストだった。そこに気が回りすぎて、荒れた風にも翻弄されて、肝心のジャンプに、もうひと押しの思い切りに欠けた。たとえテレマークを満足に入れられなくとも飛距離を優先するという戦略もありだっただろう。 男子ヘッドコーチを8年間務め、今季から女子チームをまとめる横川朝治ヘッドコーチは、夏場から「高梨特有のバネを活かしたい」と語っていた。 混沌のレースの中、金と銅を占めたスロベニア勢は、高梨とは対照的に低く構えたアプローチ姿勢から爆発力を持ち、鋭いサッツで空中へ飛び出してどんどんと風を切り裂いていった。 高梨にとっては、ソチ五輪の4位、平昌五輪の銅メダルとステップアップして挑んだ3度目の五輪だったが、2度の経験を力に変えることができなかった。世界の勢力図も大きく変化していた。 「すごくいいときもあれば、悪いときもあって山あり谷ありの4年間でしたけど、その中でたくさんの経験をさせてもらいましたし、何よりたくさんの方々に応援していただいていた。そのおかげで走り続けられた自分もいた。その恩返しができなかったのが悔やまれます」 高梨はそう悔やんだ。 だが、高梨の3度目の五輪はこれで終わったわけではない。新種目となったジャンプの混合団体戦が7日に控えている。 「まだまだ試合が続くので、あさってに向けてしっかり調整して臨みたいと思います」 男子のエース小林陵侑(25、土屋ホーム)と日本トップ2の佐藤幸椰(26、雪印メグミルク)と力を合わせて、今度は、開き直って表彰台を狙っていきたい。五輪の中で成長するのがアスリートの力でもある。2本目にやってのけた最長不倒の100mが、彼女の自信となればいい。 (文責・岩瀬孝文/スポーツライター)