「阿修羅のごとく」プロデューサーが語る、日本のドラマに多様性がなくなっている根本的な理由
向田邦子の最高傑作として名高い「阿修羅のごとく」が是枝裕和の監督・脚色によりリメイクされ、1月9日よりNetflixで独占配信される。ときに争い、口汚く罵り、泣きわめき、かと思えば抱き合って高らかに笑う阿修羅のような四姉妹を演じたのは、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずという、各世代の頂点のような俳優たち。 【写真】宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず…まるで「作品」のような場面写真 向田邦子原作×是枝裕和監督×当代きっての俳優陣の奇跡のコラボはいかに実現したのか。カギを握る人物は、本作の企画・プロデュースを手掛ける八木康夫さん。TBS在籍時にはプロデューサーとして「うちの子にかぎって…」(1984~87)や「パパはニュースキャスター」(1987)、「魔女の条件」(1999)、「おやじの背中」(2014)などの名作を多数手掛け、2018年にTBSを退社し、フリーランスのプロデューサーとして手掛けた「団地のふたり」(NHK総合)も大好評を博した。 八木さんが豪華な俳優陣を集めることができた理由について明かしてくれた前編に続き、後編となる本記事では、現場で垣間見たもの、そして時代を超えてホームドラマを作り続ける八木さんの思いに迫る。
カメラ1台、フィルムで撮る是枝監督のこだわり
――「阿修羅のごとく」は、映像(撮影/『そして父になる』『海街diary』などの瀧本幹也)も音楽(ドラマ「カルテット」「コンフィデンスマンJP」などのfox capture plan)も衣装(『海街diary』などの伊藤佐智子)も美術も、昭和のレトロな感じがありつつ、鮮やかでモダンですね。こうしたスタッフは是枝監督の提案なのですか。 八木康夫P(以下、八木P):そうです。特に映画の場合、監督の“組意識”が強いじゃないですか。通常、テレビドラマのスタッフメーキングはプロデューサーの仕事でもあるので僕がやるんですが、さすがに世界の是枝監督にお願いする以上、カメラマンや照明さんなどをこちらで指定するのも失礼かなと思い、是枝監督の普段のスタッフでお願いしますと言いました。 ――実際にご覧になってみて、映画主体の是枝裕和監督の現場は、テレビドラマ主体の方と違うところがありましたか。 八木P:僕は現場が好きなので、もともと現場にいることが多いんですが、あまり違いは感じなかったですね。ただ、今は映画でもデジタルで撮るのが主流ですが、この作品はフィルムで撮っているんですよ。映像へのこだわりなどは、是枝組のカラーが色濃く出ていると思います。もう一つテレビドラマと大きく違うのは、カメラが基本的に1台だということ。テレビはスイッチングしなくても、2台3台ということが多いですから、そこは一番違う点かなと思います。 ――1台ならではの大変さがあるものですか。 八木P:同じシーンを1台で撮るのは、2台で撮るのに比べ、単純に時間と手間がかかります。僕はテレビの人間なので、それがいいのかどうかはわかりません。僕は昔、田村正和さんとずっとご一緒させていただいてきたんですが、田村さんは映画の撮影がお好きじゃないとおっしゃるんですよね。1つのシーンは芝居を通しで撮ってほしいと。 でも、映画だと1つのシーンを数カットに分けて撮るのが普通です。それだと芝居が途切れるから、テレビのほうが好きだとおっしゃっていて。 僕もそう感じる部分がありますね。もちろん、映画でも監督によって撮り方は違うわけですが。ただ、今回の女優さんたちはテレビも映画も数多く経験されている方々だから、その点でやりにくさはなかったと思います。