「阿修羅のごとく」プロデューサーが語る、日本のドラマに多様性がなくなっている根本的な理由
ホームドラマを描ける脚本家が少なくなっている
――ドラマ制作に40年以上携わってこられた八木さんが考える日本のドラマの強みや、時代による変化はどんなことでしょうか。 八木P:僕自身、民放出身ですが、最近は特に民放さんが視聴者が何を観たいかより、スポンサーの要望で視聴ターゲットを決め、結果として若い人向けばかりの作品になっていますよね。視聴者よりスポンサー(=営業)のニーズを優先してしまっています。そうすると、ある一定の同じようなドラマばかりになってしまう。昔はもう少しバラエティがあったと思うんですが。 ――各局で同時期に同じテーマの作品がいくつも登場することもありますもんね。 八木P:記憶喪失の作品が同時にいくつかあったのは驚きましたし、BL系のドラマも多いですよね。それぞれが悪いわけではなく、気になるのは同じ題材が集中すること。キャスティングも若い人ばかりになって。またスポンサーへの配慮もあって、テーマ設定もコンプライアンスにひっかからないような無難なものばかりになっている。 そういった意味合いで、刑事モノ、医療モノ、コミック原作のドラマが、企画を通しやすく、作りやすいんですよね。 その一方で、ホームドラマは日常の細かい描写の積み重ねで、1エピソードで1時間作らなきゃいけないじゃないですか。それは脚本家が大変なんです。昔だったら向田さんや山田太一さんなど、ホームドラマをしっかり描ける作家がいましたが、今はそうした脚本家が少なくなっていることもあると思います。
作り手がセオリーに頼らないことの大切さ
――たくさんのヒット作を手掛けてこられた八木さんが、これまでご一緒されたテレビの方でなく、連絡先もご存じなかった是枝監督にオファーされたように、ご自身のセオリーでドラマ作りをしないのはなぜですか。 八木P:逆にセオリーとかノウハウがあれば教えてほしいくらいですよ(笑)。ただ、常に自分が面白いと思うドラマを作るように心掛けています。今の若いプロデューサーは、プロデューサーになることが目的になっちゃっていないかと思います。プロデューサーになるのは自分が作りたいドラマを作るための手段であって、まずはどういうドラマを作りたいかが大切なのでは。 コミック原作で今何が売れているのかといった原作探しみたいなことがメインになっていて、どういうドラマを作りたいかが希薄になっているのではと思います。 ――八木さんが企画されたNHKの「団地のふたり」は素晴らしいドラマでした。藤野千夜さんの原作の空気を忠実に再現しつつ、何も起こらない日常がドラマになるのは凄いな、と。 八木P:原作を読むと、連続ドラマになるメインストーリーはないですよね(笑)。 ――よく企画が通りましたね。 八木P:実際、NHKさんからは最初「これ、連続ドラマになりますか」みたいな声もあったんですが、過去にお仕事した小泉今日子さん(「パパとなっちゃん」「愛するということ」「恋を何年休んでますか」など)と小林聡美さん(「イエスの方舟」「誰よりもママを愛す」など)にご出演の承諾いただいてから、それをNHKさんに持って行きました。たぶん原作だけでは企画は通らなかったと思います。