「阿修羅のごとく」プロデューサーが語る、日本のドラマに多様性がなくなっている根本的な理由
長回しのセリフの応酬に耐えうる役者陣
――向田さん作品をはじめ、その時代のホームドラマは、ワンカット長回しで長ゼリフの掛け合いが多かったですよね。それに耐えうる役者さんたちは凄いと思いますが、今回の4人はそれができる方だったわけですよね。 八木P:そこは完璧ですよね。全部セリフが入った状態で現場に入られるので、さすがだなと思いました。 ――言い淀んだり言い間違えたりする会話のリアルさや、セリフの言い回しなどは、昭和のドラマを思い出しました。これは是枝監督のこだわりなのでしょうか。 八木P:是枝監督は役者のポテンシャルを最大限に引き出せる場を作ることに長けている監督で、具体的に細かい演技指導などはほとんどされないんですね。ですから、役者同士の生の掛け合いで生まれていったものだと思います。
「放送」ではなく「配信」を選んだ理由
――八木さんはずっとホームドラマを手掛けていらっしゃいますが、ホームドラマならではの魅力とは? 八木P:今はドラマにいろんなジャンルがあると思うんですが、かつては「テレビドラマ=ホームドラマ」だったんですよ。1983年の「金曜日の妻たちへ」(TBS系)がテレビドラマ史上初めてのラブストーリーと言われていたくらいです。でも、21世紀に入ってからホームドラマはほぼなくなってしまった。もちろん刑事モノとか医療モノなども立派なテレビドラマですが、ホームドラマは自分と重ね合わせて観られることも多く、視聴者にとって一番身近なテレビドラマだと思うんですよね。 「阿修羅のごとく」の女性たちも、20代、30代、アラフォー、アラフィフがいて、同棲中がいて、恋愛ベタがいて、専業主婦がいて、未亡人がいて、年齢や環境を網羅しているので、観る人が必ず誰かに感情移入できるようになっています。 ――Netflixのドラマは海外配信もされますが、海外を意識されるところはありますか。 八木P:今回は出し先が決まる前に撮影がスタートしていますから、特に配信は意識していませんでした。でも、家族という単位はどの国にもあるものですから、そのあたりがどんな風に海外の皆さんに受け止められるかは楽しみであり、興味深いですよね。 ――キャストが決まった時点で、争奪戦になるコンテンツだと思いますが、Netflixさんを選んだ決め手は何でしたか。 八木P:例えば民放さんは「阿修羅のごとく」がもともとはNHKさんのドラマだったので、難しいと思いますし、NHKさんも、NHK以外の人間が手掛けることに対して抵抗があるんじゃないかと思い、遠慮した部分がありました。その点、配信だったら制約がなさそうだったし、配信といえばいろいろある中でもNetflixさんに尽きるな、と。