『金田一少年の事件簿』原作者・樹林伸が語る はじめ役の条件
なんか怪しそう……でものぞきたい
『GTO』(連載立ち上げ。ドラマ最高視聴率35.7%)、『HERO』(原案。ドラマ最高視聴率36.8%)など、樹林が手掛けた作品はドラマ化されるたびに視聴者の心をとらえてきた。時流を的確に読み、人々の関心を引くものを提供する。そのコツは年齢や肩書にとらわれない多様な人との交流と新聞だという。 「いろんな人間と話をするのにワイン会なんかはいいですね。ワインのおかげで本当に世界が広がったし、広がった世界がシュリンクしていかないんですよ。それと新聞。新聞って網羅的じゃないですか。バンと広げると、今何が起こっているかがわかる。それで小さい記事を見るんですよ。意外とみんな知らないかもしれないけど、こういうこともあんだな、っていうことがわかったりする。広告や日曜版も見ますね。インターネットにも同じ情報はあるけど探しにいかないと目にしないんですよね」
最近の関心事は「NFT」だ。 「過去作品のNFT化とかNFTを使った漫画の発表とか、いろんなやり方があると思うんですよ。もしかしたら僕らの仕事を大きく変えてくれる可能性があるから結構面白いなと思ってて」 新進気鋭のプロダクトへ変革の期待が寄せられる一方で、著作権や安全性などの観点から慎重論も根強い。万人からとは言わずとも「怪しい」と声が上がるものにためらいはないのだろうか。 「僕はないです。だって面白いかもしれないじゃないですか。『なんか怪しそう』っていわれると、ちょっとのぞいてみたくなりません? メタバースにしてもまあ怪しいっちゃ怪しいけど、もうちょっと広がって社会の媒体的な存在になっていく可能性だってあると思うしね。そういうところに全然興味持たないで生きてくって、今の世の中だともう老人じゃないですか」
未知のものに不安を覚えるのは当然のことだ。大事なのは名探偵のような真実を見抜く力。では、樹林にとって最大のミステリーは、いったい何なのか。 「やっぱ人間の心理。なぜこれに気づかないままなのかっていう人がいっぱいですよね、今。プーチンもそうだし、コロナのことに関しても。頭のいい人が集まってどうしてこんな間違ったことになるのかって。ちょっと調べれば分かることなのになぜ調べないんだとか。特に集団の心理って本当に分からない。ミステリー、すごく。こんな不思議なことはないですよ」
--- 樹林伸(きばやし・しん) 早稲田大学政治経済学部卒業後、講談社に入社し漫画編集者として『シュート!』『GTO』等のストーリー制作に深く関わる。作家として独立後は多くの筆名で『金田一少年の事件簿』『神の雫』『BLOODY MONDAY』等多数の漫画原作、ドラマ企画を手掛ける。最近では2022年1月期にドラマ化された『ドクター・ホワイト』シリーズKADOKAWA)等の小説も著した。 (取材・文/遠藤雄士)