『金田一少年の事件簿』原作者・樹林伸が語る はじめ役の条件
乱歩に導かれミステリーの世界へ
樹林は幼少のころから本に親しんできた。江戸川乱歩シリーズでミステリーの魅力に取りつかれると小学生ながらにトリックを考案。中高時代に読みふけった横溝正史の世界にも大きな影響を受けた。 大学時代、書店で手にした本の奥付にあった「江戸川乱歩賞」の募集広告に触発され、物書きを志す。原稿用紙380枚の作品をしたためたものの選からは漏れてしまった。その後はライターのアルバイトをこなしながら就職留年を経て、乱歩賞とも縁がある講談社の内定を獲得した。 「いろいろ面白いミステリーとかが出てて、漫画にしてもジャンプとかよりちょっと大人っぽい感じの物語が作れると思って。少年漫画ってキャラクターが基本なんですよね。だけど『少年マガジン』や『ヤングマガジン』には劇画的なものがありました」 会社員人生をスタートさせた1980年代後半は「24時間戦えますか」と問われた時代。樹林もまた新人漫画家の発掘と育成に汗をかいていた。 「モーレツサラリーマンっていう感覚はないんです。漫画家と打ち合わせしてるほうが楽しくて3年目ぐらいからほとんど会社にいない状態で。ずっと外で仕事してたりとかだったからサラリーマンとしてやってるって感覚はあんまないんですよね。ただ猛烈に仕事が好きだなとは思いました」 遊び心が高じて時にはこんなイタズラも仕掛けた。 「普通漫画に出てくる電話番号って×××とかですよね。あれに思い切り数字を書いちゃったんですよ。そうしたらかけてみようかなってやつがいるだろうなと思ってたら、本当にかかってきた。でも実はそれ、僕が作ったテレホンサービス。音源も全部僕が作りました」
ボイスチェンジャーを駆使して複数の人物を演じ分ける。それも毎週。最初は1000本程度だった電話が口コミで広がり最終的には3万本にまで膨れ上がった。多忙な編集業務の合間を縫っての作業は容易ではない。なぜそこまでするのか。 「驚かせたりすんの好きなんで、すごい快感がありますよ。なんで俺こんなにやってんのかなって、好きだからですよね。面白いんですよ、仕事すんの。だからなんかやっちゃうんです」