海の煌めきを宿す、硬質な美:民谷螺鈿
当時フランスでは日本通のシラク大統領の影響で相撲のパリ興行が実現し、人気が低迷していた相撲がフランスで一躍人気を博しました。それをきっかけに、日本でも再び相撲の人気が復活します。着物や織物も海外で注目が高まることで、日本でも再び人気に火をつけることができるのではないかと考えるようになりました。また並行して、螺鈿織の特殊な技術を世界中のブランドやデザイナーが使いやすい素材として広める方法についても模索していました。そんななか、2006年に中小企業庁の取り組みの一環「ジャパン・ブランド」事業において、丹後の有志でブリュッセルとパリでの展示会を開催しました。それから年に1回、京丹後の数軒の織物工房でチームとして出展するようになりました。当初は螺鈿織の物珍しさと品質の高さから多くの注目を集めましたが、単価が高く、幅の狭い着物の帯用の生地は商材として扱いにくいため、ビジネスにはつながらず、次第にブースへの集客数も減少していきました。 しかし、2011年に33cm(着物の帯の幅)から約1m幅の織り機を導入し、幅広の螺鈿織ができるように改造しました。これを大きなきっかけとして、螺鈿織のユニークな技術と美しさが認められ、世界最大級のファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン」の中でも目玉となるブース「メゾン・デクセプション」に招待されるようになります。世界のユニークな技法や最先端技術を紹介し、テキスタイルの過去から未来を象徴するセクションです。この出展をきっかけに、そしてパリコレクションの中でもビッグメゾンでのコレクションに螺鈿織が採用され、その後も継続してパリコレクション、NYコレクション、東京コレクションなどから仕事を受注するようになります。 例としては、ハイブランドのコレクションのジャケット用に螺鈿織生地を製作したり、高級時計ブランドの時計の文字盤に使う生地をつくったり、また螺鈿織の技法を活かしてシルクに革を織り込んだ生地をロンググローブやブルゾンに使ってもらったりしたことなどがあります。最近ではディオール2024-2025 Winterのメンズコレクションで螺鈿織のルーツである引き箔の織物が使用されました。 また最近のビッグメゾンの傾向としては、クラフトへの回帰、手仕事へのリスペクトなど、伝統的な作り方を見直す機運が高まっており、それが当社のものづくりの姿勢とマッチしたのだと思います。