ノーベル文学賞受賞で話題沸騰!なぜ人気?今さらながらの「韓国文学入門」|VERY
日本文学を読んで「小説を書こう」と思った作家たち ──お互いに影響を受けているというのは興味深いところですね。韓国の今に至る歴史には、植民地支配や朝鮮戦争、軍事政権と激動の時代がありました。 60~80年代の軍事独裁政権下の韓国で小説家は、社会問題、民族、イデオロギー問題をリードする存在でした。韓国人として国を背負って、骨太の大きなテーマに取り組む作品が多く書かれた時代です。その後80年の光州民主化運動を経て、87年に民主化宣言、88年のソウルオリンピックがあり国は大きく変わっていきました。海外旅行が自由化され、日本をはじめとした海外の映画や文学作品も多く輸入されるようになりました。そして迎えた90年代は、個人の生き方を大事にする時代になります。そこで村上春樹や村上龍、吉本ばななといった日本の作家の作品が読まれるようになりました。韓国の人気作家キム・ヨンスはインタビューで「村上春樹を読んで、自分も小説が書けると思った」と話しています。今まで読んできた自国の文学とのギャップが大きかったんですね。今紹介したキム・ヨンスやハン・ガンなど70年代生まれの作家たちは、日本の小説を読んで、個人的なことや日常を小説にしてもいいということに気づいた世代です。でも、それだけではありません。韓国の作家は、個人的な話だけではなくて、社会問題、歴史問題を小説の中にもうまく折り込んでいるのです。 ──それは、今までの歴史があるからでしょうか? はい。今、2020年代になって日本の読者は、そんな韓国の小説を求めています。90年代に日本の小説に影響された作家たちやその後の世代の作家たちの書いた小説が今、日本の若い人たちに受けているという流れがあるのです。
「日本と韓国の現状、人々が抱える閉塞感はとてもよく似ていると思います」
閉塞感ある時代に読まれているエッセイ ──時を超えて、互いに影響を受ける図式があると知りました。それからこのところ、韓国の生き方、自己啓発系のエッセイも日本でよく読まれていてベストセラーになっていますよね。なぜ売れるのでしょうか。 エッセイは『死にたいけどトッポッキは食べたい』(光文社)、『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)をはじめ人気作品が続々と出ています。今は日本も韓国も明るく希望の見える社会とはとてもいえないですよね。閉塞感のある時代だからこそ、「無理しなくていい」「そのままの自分でいい」という癒し系のテイストのものがよく読まれている気がします。 ──両国の現状が似ているということですが、もしも違いがあるとするならば、社会制度や政治問題など、おかしいと感じたときに声をあげる意識は韓国のほうが強いのではないかと感じるのですが。 民主主義を獲得し、政治腐敗を追求するなど、声をあげることで自由を勝ち取ったという感覚が、韓国人は強いと思いますね。声を出すことによって自分の存在を主張するし、間違いを正すことにつながるという感覚を持っています。だから、みんなで声をあげるんだという意識は強くありますね。もちろん日本でもやっている人はいると思いますが、なかなかその声が広がらないとしたら、おそらくそれは、成功事例が少ないからではないでしょうか。私たちは世の中を変えられると信じて声をあげることは、とても大事だと思います。