高川学園が8強進出…なぜ世界を驚かせた奇想天外な”グルグル円陣FK”が誕生したのか?
星稜戦で見せた5人一組の『トルメンタ』を発案したと中山が2回戦後に明かせば、警戒してくる相手を上回るために「ちょっと変えようか」と、3人一組の輪を2つ作ったと林も続いた。一連のやり取りを、江本監督は目を細めながら見守ってきた。 岡山学芸館を下した後に、副校長も務める37歳の指揮官はこう語っている。 「子どもたちがアイデアを出したその流れで得点できたことで、子どもたちがまたさらに成長できたのではないかなと思っています」 2013年12月から指揮を執る江本監督は、強化部をはじめ分析部、グラウンド部、企画部、おもてなし部など部内に設けたセクションに部員全員を所属させ、さまざまな角度からチーム力を向上させてきた。練習以外で積み重ねられてきた試行錯誤の跡はチームへの帰属意識を高め、結束力と個々の責任感を育む相乗効果をもたらしてきた。 その過程で生まれた『トルメンタ』は、星稜戦を観戦したファンが撮影した動画がSNS上で瞬く間に拡散され、世界中から称賛される現象を生み出した。 例えばイギリス紙『ザ・サン』は「見よ、信じられるか!」の見出しとともに、星稜戦でのゴールを「相手守備陣はなす術がなかった」と絶賛。スペインのスポーツ紙『マルカ』にいたっては「日本のティーンエイジャーたちの斬新なアイデアが、美しいゴールを生んだ」と常識にとらわれない奇抜な発想の大切さを説いた。 SNS空間でいわゆる“バズった”現象の真っ只中で、今後の対戦相手に研究され、対策を講じられるのではないかと江本監督は危惧するようになった。 実際、仙台育英の城福敬監督は今大会中に撮った『トルメンタ』の映像を繰り返し選手たちに見せている。キャプテンのMF島野怜(3年)はミーティングを重ねた末に、決戦前夜に弾き出された対策を試合後にこう明かしている。 「相手が丸くなったときは、基本的に『9番』と『10番』がターゲットになると」 相手をかく乱するために円を作り、回転から散開してマークを翻弄させても、最後は必ず中山(9番)と林(10番)に合わせてくる。そのためにも島野とDF松井大翔(3年)は、相手のセットプレー時には絶対に中山と林から目を離さなかった。 しかし、研究されても焦れず、それでいて『トルメンタ』を乱発せず、時には“囮”に使い、縦に組む新バージョンも織り交ぜながら、最後にゴールを陥れた。 「最後の最後に集中力が切れたというか、隙を作ってしまった」