自民党の“どん底”時代を知る元総裁・谷垣禎一が語る「安倍晋三・石破茂・小池百合子」それぞれの本性
2012年、衆院選で圧勝して政権に返り咲いた、自民党。谷垣禎一氏は法務大臣に就任した。資料を読み込み、死刑囚の不幸な生い立ちにも思いを馳せながら、仏像と数珠をかたわらに、死刑の執行命令書に署名した。2016年、趣味のサイクリングで転倒し、集中治療室に運ばれることになった。※本稿は、谷垣禎一、水内茂幸、豊田真由美『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 法務大臣のイスに座る以上は 死刑執行命令は避けられない 《2012年12月、自民党は衆院選で圧勝し、3年3カ月ぶりに与党に返り咲いた。直後に発足した第二次安倍晋三内閣で、谷垣氏は法相に就任した》 新内閣発足直前、誰かの政治資金パーティーの控室で安倍さんと居合わせ、「何かやってくださいよ」と防衛相などいくつかの閣僚ポストを提示されました。いずれも断ると「何だったら引き受けてくれるんですか」と食い下がられ、「そこまでおっしゃるなら」と法相を挙げました。政界に入る前は弁護士でしたからね。安倍さんは「じゃあ、それでお願いします」。組閣の日、首相官邸で告げられたポストは案の定、法相でした。 《在任中は11人の死刑囚への死刑執行を命じた。法務省が執行の事実と人数を公表するようになった1998年11月以降では、上川陽子元法相の16人、鳩山邦夫元法相の13人に次いで多い》 過去に執行命令書への署名を拒んだ法相が何人かいましたが、法相を引き受けておいて死刑を執行しないなんておかしい。法律で死刑という制度が定められていて、その執行は「法務大臣の命令による」と書いてあるのですから、個人の信念や宗教上の理由で執行しないのは間違っています。できないのなら、法相としてただちに法改正の作業に着手すべきです。
ただし、死刑制度に対する世論の動向はよく見極める必要があるでしょう。内閣府が5年に1度実施している世論調査では、約8割が死刑制度を容認しています。一方、世界的には死刑を執行している国は少数派。(冤罪などの)弊害もないわけではありません。そういったことには十分に意を用いるべきだと思います。 ● ほとんどの死刑囚が 虐待を受けて育っていた 《執行命令書の署名にあたっては、判決の関連資料を読み込み、死刑囚の生い立ちや犯罪に手を染めた経緯などにも意識を向け、自分なりに納得した上でサインすることを心掛けた》 死刑判決の資料はできるだけ丁寧に読むようにしていました。人の命を奪えと命令する以上は、そのために部下がそろえてきた資料をよく読み、「よし、これはやるべし」というふうにしないといけないと考えていたのです。 だけど、きちんと読み込もうと思ったら結構大変なんです。持ち出し禁止の資料は法務省の大臣室でしか読めませんから、国会会期中は読む時間があまりないんですね。それで執行が閉会直後になると「会期中を避けたのでは」と言われることもありました。 他の法相経験者はどうか知りませんが、私は大臣室の引き出しに仏像と数珠を入れておき、署名時に手を合わせていました。やっぱり、なかなか荷の重い仕事ですから。