パンダはどこからやって来たのか? 白黒模様の起源と進化の謎
パンダ進化におけるユニーク性
ジャイアント・パンダの正式な学術名はAiluropoda melanoleucaだ。属名のAiluropodaはギリシャ語で「猫の足」の意味だ。単一の種と属だけが、ジャイアントパンダ亜科において現在知られている。ちなみに本場中国では「熊猫」とつづるジャイアント・パンダ。熊という字を組み入れたのは、進化系統関係を考察する上で、まさに先見の明があったといえる。O’brien等(1985)の研究によると、パンダはその大まかな体つきやサイズで推測できるように、クマ科(Ursidae)に属する。 O'Brien SJ, et al. (1985) A molecular solution to the riddle of the giant panda's phylogeny. Nature 317 (6033):140-144 しかし、ヒグマやツキノワグマなどのクマ属、マレーグマ属、そしてメガネグマ属などとの進化関係において、パンダは一番原始的なグループ(亜科)に位置すると考えられている。我々にとって顔なじみのクマ属の種とは、2000万年以上も前に枝分かれした可能性が高い(こちらのサイト参照)。平たく言えばその白黒模様だけでなく、ジャイアント・パンダはかなり独特で他の熊たちとはかなり異なる進化上の道筋をたどって今日に至っているといえる。 さてジャイアント・パンダのユニーク性として、白黒模様の他にここでは二つほど例を挙げてみたい。(他にもいくつかあるはずだ。)まず竹を主食とする食生活だが、どうして栄養価の低い竹などをわざわざ選んで食べはじめたのだろうか(Image2参照)? 他にパンダと競って竹を食する種はいないという事実は、進化上、プラスに働いているのかもしれない。タケノコの煮物なら私も喜んで食すが、青々と成長した非常に固い竹の枝葉や幹を一日中噛み砕け続けるだけの、丈夫な歯とアゴや胃袋(そして度胸)は持ち合わせていない。 パンダがクマ科に属するということは、直接の祖先が現生のクマ種に共通してみられるように、「肉食」だったと推測できる。この進化上、何千万年という永きにわたって続けてきた食生活を、がらりと変えるのは物理上一見不可能に映る。竹を消化するための新たな消化器官システムが必要になるからだ。最近の研究はセルロースという独特の「酵素」がパンダの体内に存在している事実を指摘している(Zhu等2011)。しかし具体的に「どうして竹を食べはじめたのか?」、この進化上の根本的な問いかけに対する答えは、私の知る限りまだほとんど解明されていないようだ。 Zhu L, Wu Q, Dai J, Zhang S, Wei F (2011) Evidence of cellulose metabolism by the giant panda gut microbiome. Proceedings of the National Academy of Sciences 108 (43):17714-17719. doi:10.1073/pnas.1017956108 そしてパンダの手にはなんと6本の指がある。解剖学上正確にいうと、もともとの親指の骨が変形して枝分かれした第6指は、いわゆる「パンダの親指」といわれ、好物の竹を手で持つことに適応している。あまりおいしそうに見えない竹のために、わざわざこんな摩訶不思議な指を「手に入れる」必要があったのだろか?(だじゃれとともにこんな邪推の一つもしたくなる。)