パンダはどこからやって来たのか? 白黒模様の起源と進化の謎
Caro等(2017)の研究によるパンダ白黒模様の進化と起源
2月28日付けで発表されたCaro等の研究論文のタイトルは、ずばり「なぜジャイアントパンダは白と黒を手に入れたのか?」というものだ。生物進化を研究する者にとって、このようなタイトルの論文は、パンダの目の前に差し出された竹のごとく、すんなりと素通りすることが難しい(やれやれ)。 Tim Caro HW, Zoe Rossman, Megan Hendrix, Theodore Stankowich (2017) Why is the giant panda black and white? Behavioral Ecology in press:11 pp. doi: Caro博士と研究チームは、39のクマ亜種を含む195種の陸生肉食哺乳類の体毛の模様をパンダと比較した。この中にはオオカミなど野生のイヌ科の種、ライオンなどのネコ科、タヌキ、ミンク、スカンク、キツネ等も含まれる。こうした哺乳類の体の表面を目の周り、耳、背中、肩、手、足など13の体部位に分け、そしてトータルで31色に及ぶ体毛の色を細かく判定しデータ分析を行った。 こうした肉食哺乳類の体毛の色は、大まかに(1)雪環境におけるカモフラージュ(=ホワイト系)、(2)森林などの陰影におけるカモフラージュ(ダーク系)、(3)同一種の個体間同士における認識(コミュニケーション)等が、大きな役割を果たしているそうだ。季節によって毛の色をがらりと変える種もいくつかいる。 体の部位においてもいくつか興味深いパターンを述べている。例えばタヌキなどに見られる目の周りの淵は、薄明薄暮性(はくめいはくぼせい:夕暮れと明け方に活発になる)という習性との強い関連性が以前から指摘されていたが、今回の研究のデータはこの仮説に当てはまらないそうだ。パンダは昼間も夜間もいつでも好物の竹を食べるそうなので、特に目の周りの黒淵色を用いて光の量をコントロールする必要などないはずだ。 パンダ独特の模様は他の種 ── 特にプレデターなど ── を混乱させて身を守るためのものという仮説(disruptive coloration)も以前から指摘されていた。例えばいくつかの昆虫や鳥は奇抜な色や模様によって、捕食者を直接遠ざけるケースが確認されている。しかしパンダを含む多くの哺乳類は、このような行動によって天敵から身をまもる事例はほとんど確認されていないという事実も、この論文において指摘されている。加えて私が思うに大柄なパンダを直接襲う捕食者として、実際どのような種がいるのかもかなり疑問だ。トラやオオカミはパンダの生息地近辺に多数いるのだろうか?