日本ワイン、世界で「メダルラッシュ」 サントリーやマンズワイン…注目の受賞銘柄
■温暖化を受け、栽培時期をずらす工夫も
日本の多くの産地では近年、地球温暖化などの影響で、ブドウが成熟する夏から秋にかけて夜間の気温が下がりにくいという問題が生じている。夜温が高いままだと、「ブドウが夜間も活発に呼吸してエネルギーを消費するため、実に十分な栄養を蓄えられず、ワインの品質にも影響する」と登美の丘ワイナリーの大山さん。副梢栽培はブドウの成熟が始まる時期を1カ月以上遅らせることで、ブドウの成熟期を夜温が下がる時期に合わせられる。 品種に関しても、各地のワイナリーが試行錯誤しながら様々な品種を植えてきた結果、日本の気候や土壌に適した品種がだんだん絞られてきた。シラーもその一つだ。世界的に人気の品種ピノ・ノワールは日本でも各地で栽培されているが、北海道のピノ・ノワールに対する評価が最近、海外で急速に高まっている。もともと冷涼な気候を好むピノ・ノワールは北海道の気候と合うことが、経験上からも明らかになってきた。 「世界のベストレストラン50」で1位に5度輝いたデンマークの「ノーマ」は2020年、北海道余市町のワイナリー「ドメーヌタカヒコ」の「ナナツモリ ピノ・ノワール 2017」を日本ワインとして初めてワインリストに載せ、話題になった。一方、フランス・ブルゴーニュの老舗ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」は2017年、北海道函館市内に畑を取得し、ピノ・ノワールに特化したワイン造りを始めた。
■ブドウ栽培から手掛けるワイナリーも増加
日本ワインが好評な3つ目の要因は、耕作放棄地を自社畑に転用し、ブドウの栽培を直接手掛けるワイナリーが増えていることだ。日本では伝統的にワイナリーがブドウ農家からブドウを購入してワインを造ってきた。しかし、このやり方だと栽培の細部までワイナリーの目が行き届かず、高品質のワイン造りを難しくしている一因となっていた。 耕作放棄地は農家の高齢化に伴い日本各地で増え、問題化している。耕作放棄地のワイン用ブドウ畑への転用は、耕作放棄地の有効活用と日本ワインの質の向上という一石二鳥の効果をもたらしている。 もちろん、現状では、すべての日本ワインが国際コンクールで入賞できるような品質のレベルに達しているわけではない。日本ワイン全体の評価を高めるには、さらなるレベルの底上げが必要だ。 文:猪瀬聖(ワインジャーナリスト)
猪瀬聖
WSET認定Diploma(DipWSET)。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート/Sake Diploma。チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル。著書『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。元日本経済新聞社ロサンゼルス支局長。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。