【越境攻撃を「挑発」と形容】自国領土占領の“失態”にプーチンの不自然な言葉選び、国民より占領拡大を優先する冷徹戦略も
ロシア西部クルスク州に対し、ウクライナ軍が越境攻撃を開始してから1カ月以上がたった。ロシア軍が反撃を強めているとも報じられているが、全占領地からウクライナ軍を駆逐するには至っていない。一方でプーチン大統領は、外遊や国内の別地域を訪問するなど、緊急事態にも関わらず、平然とした態度を見せ続けている。 ただ、そのようななかで浮かび上がるのは、不都合な事態を覆い隠すために情報をコントロールする政権とメディアの姿だ。住民らはわずかな補償金で避難を余儀なくされ、「ウクライナの非道」に目を向けるよう仕向けられている。 ロシア軍はその後もウクライナ東部の占領地を拡大するなど、ウクライナ側が期待した、ロシア軍の分断に成功しているとはいいがたい。ソ連時代を通じて初めて外国軍に領土を占領されるという失態を犯したプーチン政権だが、自国民の保護よりも前線を優先するという冷徹な戦略で、ウクライナを追い込もうとしている。
悠々と〝外遊〟
「もちろんわれわれは、クルスク州に侵入したならず者ども、そして奴らの、国境付近を不安定化させようという試みに対処しなくてはならない」 「しかし、やつらの試みは失敗するだろう」 ロシアのプーチン大統領は9月2日、モンゴルを外遊する直前に南シベリアのトゥバ共和国を訪れ、学生の質問に答えるという形でこのように発言した。 同共和国はウクライナ侵攻において、特に戦死者の割合が多い地域として知られる特有の地域だ。プーチン氏は、「自分の父親も特別軍事作戦(ウクライナ侵攻)に参加している」と話す17歳の女学生の質問に答える形でこのように述べたが、その質問はとても普通の学生が準備したものとは考えられない内容だった。政権側がこのプーチン氏の発言を伝えるために、質問内容を入念に用意していたあとが伺えた。 さらにこの発言は、モンゴル訪問の直前に行われたという事実でも注目される。大統領は悠然と国内各地を訪れ、西側の圧力にもかかわらず海外にも行く。若い人々は、プーチン氏の言葉に真剣に耳を傾けている。そしてロシア軍は、変わらずドンバス地方で進撃を続けている――。学生らとの会話からは、そのようなメッセージを国民に示す政権の狙いが鮮明に浮かび上がる。