公共交通の崩壊=医療崩壊? 北海道「通院100km」問題が示す、地域格差の辛らつ現実とは
医療機関の立地が招く運転リスク
もうひとつ、北海道には限らないが近年問題となっている高齢者の異常運転(店舗突入など)について、薬物の影響の指摘がある。もちろん違法薬物の話ではなく、医療機関で処方される薬物、あるいは市販薬でも運転に影響する薬物がかなり存在する。 高齢者はこうした薬物を服用する確率が高くなるために、結果的に高齢者の事故が多いように認識されるというのである。これはまだ 「少数見解であり定説ではない」 が、事実とすれば高齢者に限らない問題でもあり、本格的に調査すべきである。 そもそも医療機関に行くのは何らかの心身の不調があるからであり、薬物との関連は別にしても、それ自体が車の運転にとってリスクを高めているはずである。 一方で北海道に限らず、医療機関が公共交通の不便な場所に立地し、現実的に車でしか行けない場所にある例は珍しくない。この面からも「医療」とは「交通」の問題であることが改めて認識されるだろう。
崩壊する公共交通と対応
図は、北海道でこれまでに廃止された鉄道とバス路線である。鉄道は戦後以降について、またバスはデータの制約があるが2011(平成23)年以降で2022年までに廃止された路線について示す。 特にバスはわずか10年ほどの間で急速に縮小が進んでいる。利用者が少ない鉄道路線をバス転換するのは一時しのぎにすぎない。転換直後は便数の増加が行われる場合もあるが、程なくバスも廃止される。北海道どころか、最近では東京駅から直線距離で50kmほどの位置にあるJR東日本の 「久留里線の一部」 でも、廃止を前提とした協議が始められている。以前に東北のある路線バスを利用しようとして事前に時刻を調べたところ、距離のわりに不自然に所要時間が長いので疑問を感じた。現地に行ってみると、いくつかの医療機関や福祉施設を経由する路線で、おのおのの玄関の屋根下までバスを回して乗り入れるためとわかった。 また各施設の玄関内にバス接近表示器も設けられていた。デジタル技術はこういう用途にこそ使うものだ。冬季に道路沿いの「○○病院前」などという吹きさらしのバス停で、降雪で遅延するバスを待つのは大変な苦痛だ。これを緩和する配慮として重要である。 北海道には限らないが、医療機関の受診でもうひとつの大きな負担は「待ち時間」である。トリアージ(災害時などに緊急度に応じて優先度を決める取り扱い)を除き診察や処置は原則として先着順である。 ところが特に地方都市では、任意の時間に来院できる車に対して、便数の少ない公共交通では受付が遅くなり、待ち時間の増加につながる。先着順は一見公平のように見えるが「先着順に参加できない人」には公平ではない。診察や処置後の帰りも便数が少ないからここでも待ち時間が増える。