嚥下障害は食べる楽しみに影響、栄養状態低下の原因にも―予防には耳鼻咽喉科に相談を
飲み物や口で咀嚼(そしゃく)された食べ物は、嚥下(えんげ=飲み込み)と呼ばれる反射運動によって、咽頭(のど)を通過し、食道、そして胃へと送られてゆきます。何らかの原因でこの動作が阻害されてしまうと、食べ物がうまく飲み込めない、つまり、嚥下障害の症状が現れることがあります。食事を困難にする嚥下障害は、「食べる楽しみ」に大きく影響するのみならず、栄養状態を大きく悪化させる懸念があります。 【動画】藤島式嚥下体操セット 嚥下障害の原因は、腫瘍(頭頸部がんなど)や炎症などによって器質(構造)上の問題が起きているケース、また、うつ病など心理的な問題が影響しているケースなどさまざまです。また、認知症も嚥下障害の一因となります。 さらに嚥下障害は、加齢に伴う、咀嚼機能の低下や唾液の分泌量の減少、嚥下運動に関わる筋力の低下、あるいはサルコペニア(全身の筋力低下)といった生理的な変化も大きく影響します。たとえ目立った疾患がない場合でも、年齢とともにそのリスクは高まると言えるでしょう。
◇嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)の原因にも
また、嚥下障害が引き起こす深刻な事態に誤嚥があります。誤嚥とは、本来口腔から咽頭、食道へと進むべき唾液や飲食物が、誤って気管のほうに入ってしまうことです。正常な嚥下運動では、食べ物や飲み物を飲み込む際、空気の通り道である気管の入り口は閉じられるのですが、嚥下障害によりその機能がうまく働かなくなってしまうのです。 誤嚥が起こると、通常は、むせたり咳き込んだりして、間違って侵入した唾液や飲食物を追い出し、体を守ろうとする気道防御反射が起きます。逆に言えば、食事のたびにむせたり咳き込んだりするのは、嚥下障害による誤嚥が起きているサインでもあります。高齢になるほどその反射力も低下するので、誤嚥しても気づかないことがあります。 誤嚥は窒息の原因にもなりますが、唾液や飲食物に含まれる細菌が肺に侵入すると、「嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)」を引き起こします。誤嚥したからと言って必ず肺炎を起こすわけではありませんが、抵抗力が低下しがちな高齢者の場合ほど、その危険性は高いと言わざるを得ません。肺炎は、高齢者の死因の上位に上がる重大なリスクですので、誤嚥へのケア、ひいては嚥下障害への正しい対処は命を守るためにも重要なのです。