奈良で古民家暮らしを始める人が続々! 町家を改修した宿できっかけつくる「紀寺の家」がおもしろい 奈良県奈良市
「古い建築は、その土地で手に入る身近な材料でつくられています。それが地域ごとの建築の個性にもなる。たとえば土壁は、家を建てるその地域の地面から掘り起こした土を使っていたりするんです。ですから、残せるものはなるべく残すようにしています。廃材を転用する場合はその空間にあった材料を選ぶこと、新しい材料は古く見せる加工をせずそのまま使って新旧の対比が際立つように意識しています」
「また日本の古い住宅は、夏の暑さ対策を重視してつくられています。そのため風がよく通るつくりになっているのですが、気密性能を高めるためには窓や扉、サッシを入れ替えなくてはなりません。ただ、雨風も含めて自然を感じながら暮らしてきたところも町家の良さのひとつだと考え、『紀寺の家』では既存の木枠の窓や扉を残しつつ、床壁の断熱性能を高めることで通年の快適さを担保しています。風のある日は扉がカタカタ鳴るので嫌がる方もいるかもと心配していましたが、お客さんの反応は好感触で安心しました」 俊平さんは2010年に藤岡建築研究所に入所した後、2011年に紀寺の家の運営を開始します。当時、奈良の古い町家が急速に建て替えられていく状況に危機感をもつと同時に、町家暮らしにニーズがあるはずと確信もあったといいます。 「町家がどんどん壊されていく一方で、住宅雑誌では古民家をリノベーションした住宅の特集が組まれていて、そうした暮らしにあこがれる人は一定数いることはわかっていました。このギャップはどうして起こるのかと調べてみると、町家に暮らしたいと思っても普通の人が買ったり借りたりできるような物件が流通していないんですね。でも町を歩くと空き家になっている町家はたくさんある。不思議に思い不動産会社に聞いたところ、意外なことがわかりました」 「なんと、空き家になった町家は”建築物”としてではなく、”土地”という区分で売買されていたんです。つまり建物は解体する前提で売られている。検索しても出てこないわけです。しかし実際に見に行くと、きちんと手を入れさえすれば十分に住むことができる町家が残っていました。といっても、僕たちのように建築の知識がある人間が見ればそうとわかるけれど、そうでない人からするととても住めるようには思えないほど荒れ果てています。木造の住宅は長年放置してしまうと、湿気が溜まってシロアリが発生し、木材が朽ちてしまうなどそのままでは住めない状態になってしまうんです。通常、物件を探して不動産会社と内見する段階では設計者が同行することは稀なので、町家に住みたいと思っても不動産会社の担当者から『解体して建て直したほうがいいですよ』と言われると解体する判断をしてしまうでしょう。実際には、解体せずに活かすことができれば解体費用も抑えられるため、更地にされた土地よりも割安であるにもかかわらずです。奈良だけでなく、全国的な課題だと思います。この状況を変えるためには、物件のオーナーから改修設計を請け負う従来の設計事務所のアプローチだけでは不足していると感じたんです」
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