食体験からその人の魅力を紐解く。 作家、エッセイスト・阿川佐和子の〈味の履歴書〉
<新亜飯店 芝大門店〉
1969年創業の老舗で、日本で初めて小籠包を提供した店。満足感のある大きめサイズに、スープと肉がぎゅっと詰まっている。6個入り1650円。 住所:東京都港区芝大門2-3-2 TEL:03-3434-0005 営業時間:11時30分~14時30分、17時~21時(土11時30分~21時、日祝12時~21時) 定休日:年末年始休
結婚しまして、食生活も変わりまして。
2017年、63歳で結婚。それまで帰宅が深夜だった頃の名残で朝食は摂らず、ずっと1日2食生活を送っていた阿川さん。結婚を機に、夫に合わせて3食になったのは大きな変化だった。当初は昼食を抜いてバランスを取っていたものの、コロナ下でお互いずっと家にいるようになると、夫につられてなんだかんだと口にするようになった。 コロナ下は、食事の支度に追われる日々でもあった。「外食も気軽にできず、3食きっちり作らなきゃいけない。朝ごはんを食べ終えるとすぐ『昼ごはんは何?』なんて聞かれるんですから! おかげでレパートリーは増えましたけど」。自身が感染したときは、「これが『食欲がない』という感覚か」と新鮮さともどかしさを噛みしめた。 食の好みもだんだん変わってきた。あんなに大好きだった牛肉や脂っぽいものが、どうも重たい。一方で食欲自体は健在で、春には「伝説の家政婦」ことタサン志麻さんと、自宅で作れるフレンチの本『菜箸でフレンチ』を出版。「私が食べたいものをお伝えしたら、すばらしいレシピにしてくださったんです」。この本のレシピを、そのときの気分や冷蔵庫のメンバーに合わせてアレンジするのも日々の楽しみ。父からバトンを受けとった食い道楽人生は、まだまだ充実していきそうだ。
阿川佐和子 〈作家、エッセイスト〉
あがわ・さわこ/作家、エッセイスト。1953年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒。テレビ番組の進行役や対談連載のインタビュアーを長年務め、大人気に。1999年、檀ふみさんとの共著『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、2000年『ウメ子』で坪田譲治文学賞、2008年『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞受賞。『聞く力』『母の味、だいたい伝授』など著書多数。近著に『菜箸でフレンチ 春夏秋冬のごちそうレシピ』(共著・弊社刊)。
illustration_Mihoko Otani text_Yuko Tanaka