食体験からその人の魅力を紐解く。 作家、エッセイスト・阿川佐和子の〈味の履歴書〉
アメリカで堪能したのはエスニック料理。
39歳のときに1年間渡米した。旅の楽しみは食の楽しみ。滞在したワシントンD.C.には世界各国の料理が集結していた。「メキシコにトルコ、ギリシャ……いろんな料理を食べました。チャイナタウンにもよく行きましたね、本格的なのに安くって。日本から来た友だちを連れていくのもこういう店ばっかりだから、アメリカっぽくないとよくブーイングを浴びました(笑)。でも、おいしければ何料理でもいいじゃない?」 中でも郊外にあるベトナム料理の〈フォー75〉が一番のお気に入りだった。あやしげなキャバレー、無骨な工業用品店の並びに突如現れるフォー専門店。扉を開けると店は広く、まずはサイズと無数にある部位から肉を選ぶ。ミントやネギ、香菜等がどっさりのった器が届いたら、卓上のソースで好みの辛さに調整して完成だ。コンデンスミルク入りの甘いベトナムアイスコーヒーも火照った体にたまらなかった。「もう3食ここでもいいわってくらい惚れたの。アガワ的フォー世界一です」 すっかりフォーに魅了され、帰国後も食べ歩いた。お気に入りの食べ物には「深掘り癖」が出るのだという。51歳でゴルフを始めたときには、行く先々のゴルフ場で出されるカツサンドを定点観測した。「パンが焼いてあったり生だったり、バリエーション豊かなんですよ。お気に入りは、相模湖カントリークラブのカツサンド。トマトやレタスが入っているのにパンがべちょっとしていない。つまり、注文のたびに一つずつ作っているわけです」 去年の暮れ、台湾に行き小籠包にハマった阿川さんは当然、日本でもおいしい小籠包を探し求めた。行き着いたのは、高校生の頃に初めて小籠包を食べた芝大門の老舗〈新亜飯店〉。「感動しました、昔と変わらぬおいしさで。一緒に行った番組スタッフも夢中で、蒸籠がどんどん空に。結局、3回もおかわりしました」
〈フォー75〉
ワシントンD.C.郊外、アーリントンのフォー専門店。選択肢の多さと本格的な味が評判。コロニアル・ビレッジ・ショッピング・センター内。 住所:1721 Wilson Blvd, Arlington, VA TEL:703-525-7355 営業時間:10時~21時 定休日:木休