まとまらない米国の景気対策 米経済は大丈夫なのか?
アメリカで追加の景気対策をめぐる協議が難航しています。11月3日に行われる大統領選前の合意に悲観的な見方も出ています。アメリカの経済は大丈夫なのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】「日銀化」するFRB でも違うのは……?
実は「余裕がある」米経済
本来は7月末までに策定されているはずだった米国の包括的景気対策の協議は、暗礁に乗り上げたままです。過去数週間、共和党と民主党の両党はわずかながら歩み寄りの姿勢をみせているものの、予算規模をめぐる協議は依然として大きな隔たりがあります。2.2兆ドル規模の予算を要求する民主党に対して、共和党は1.8兆ドルを上限として頑なに譲りません。景気対策が合意に至らない責任を押し付け合い、互いの支持率低下を狙っているようにみえます。今や11月の大統領選前に合意に至る可能性は大幅に低下し、年内の合意すら危うい状況になりつつあります。米国で新型コロナウイルスのパンデミックが本格化した3月には大規模景気対策がわずか10日程度でまとめ上げられ、米経済の窮地を救いましたが、それに対して目下の政治的混迷は米経済の「足かせ」となっています。 では、なぜ景気対策が決まらないかと言えば、それは「良くも悪くも米経済には余裕がある」、この一言に尽きます。後述するように過去数か月の米経済回復ペースは春ごろに想定されたペースを上回っており、現在も急減速している様子はありません。それがゆえに景気対策がまとまらないという何とも皮肉な状況です。
回復傾向示すいくつかの指標
では、直近発表された幾つかの重要指標をみていきます。まずは失業率。9月時点で7.9%となお高水準ではあるものの、これは6月時点における米連邦準備制度理事会(FRB)の想定を既に下回る改善ぶりをみせています。当時の想定では2020年10~12月期平均が9.3%とされていました。雇用関連統計を細かくみると、失業者に占める長期失業者の割合が上昇(一時解雇の割合が低下)しているほか、新規失業保険申請件数が高止まりするなど不気味な兆候はありますが、後述するように、企業のアンケート調査では前向きな雇用計画が示されるなど経済活動再開に向けた動きが観察されており、総じてみれば回復傾向にあると考えられます。 明るい企業マインドを象徴する指標としては、ニューヨーク連銀製造業景況指数とフィラデルフィア連銀製造業景況指数があります。まずはNY連銀指数からみていきます。10月のヘッドラインは+10.5へと9月から6.5ポイント低下しましたが、これは在庫の減少に起因するものであり、生産活動の強さを示す新規受注、出荷、雇用、週平均労働時間、受注残といった指数はいずれも改善していました。またフィラデルフィア連銀製造業景況指数も同様に堅調な結果でした。ヘッドラインは+32.3へと9月から17.3ポイントも上昇。高水準だった新規受注、出荷指数が一段と改善したほか、週平均労働時間や受注残も大幅に増加しており、総じて力強い結果でした。