「聞き上手な父親」が妻や娘に不満をもたれてしまう意外な理由とは? ハーバード大が解き明かした“幸せな人生”の秘訣 (レビュー)
幸せな人生を送るためには「良い人間関係が必要だ」――ハーバード大学の研究が解き明かした幸せな生き方に必要なたった一つのこと。それでは、良い人間関係を作るために本当に必要な力とはなんでしょうか? 教育評論家の親野智可等先生が、本書を通して人間関係の構築に必要な力を考えます。
科学が解明した、「幸せな生き方」の条件
人は誰でも幸せな人生を送りたいと思っています。では、そのために何を大切にすればいいのでしょうか? 回答としてはお金、仕事、生き甲斐、遊び、夢、友情、恋愛、健康、学歴、地位、名声、家族などいろいろなものがあり得ます。過去の偉人による幸福論もたくさんあります。 しかし、本書で扱っているハーバード成人発達研究所のように科学的で大規模な調査研究はなかったはずです。本研究では、人々の健康と幸福を維持する要因を解明するため同じ人たちを84年にもわたって追跡調査してきました。膨大な質問やさまざまな測定方法を用いて多面的かつ詳細に。 その中でいろいろな知見が得られたわけですが、シンプルにまとめると良質な人間関係が極めて大事ということです。でも、その結論だけを知って本書の内容を理解したと思い込んだとしたら、それはもったいないことです。 なぜなら、本書には非常に多くの具体的な実話エピソードが紹介されており、その一つ一つに通り一遍でない深い考察がなされ、「幸福とは何か」「幸せな人間関係とは何か」を考える上でとても参考になるものが多いからです。
「聞き上手」の落とし穴
私が個人的にとても考えさせられたのは、第7章で紹介されているジョセフとオリビアの夫婦の例です。夫のジョセフは妻のオリビアにも子どもにも愛情を注いできました。相手の意見を尊重し、求められれば助言をするけど指図することはありません。家庭でも職場でもまず相手の意見に耳を傾け共感しながら聞き、それから自分の考えを言う人です。 これらの資質は、本書でも推奨されている良好な人間関係を築くための手法に当てはまっていて理想的に見えます。でも、思いがけない問題点があることが研究者の聞き取り調査で判明しました。それは、ジョセフと親しい人々は彼が自分の心を開かないことに対して不満を感じていたということです。 妻も疎外感を感じていましたし、娘も父親について「必要なときにはいつだって物心両面で支えてくれたし、頼りになる父親だと感じていた。だが、父親という人間をとことん理解していると思えたことは一度もなかった」と言っています。 このエピソードから学べるのは、親密な人間関係を作る上ではただ聞き上手なだけでは不十分で、ときには自分自身の内面を打ち明けることも必要だということです。心理学でいうところの「自己開示」です。 もちろん何でもかんでも打ち明けることなどできませんしその必要もありませんが、常に聞き役で自分の心は決して開かないということだと相手は寂しさを感じてしまうものなのでしょう。実は私自身にもジョセフのような傾向があるので、身につまされる話でした。