「アートウィーク東京」いよいよ11月7日から開催!ディレクター蜷川敦子が創設の狙いと今年の見どころを語る
民主主義を獲得する有効なツールとしてのコンテンポラリーアート
──11月に開催される今回のAWTの目玉や注目点を教えてください。 蜷川:まずおすすめしたいのは、虎ノ門にある現存する日本最古の私設美術館、大倉集古館でAWTの期間限定で開催される展覧会「AWT FOCUS」です。「買える展覧会」がコンセプトのこの展示は、出品作品を実際に購入できる珍しい試みで、AWTが目指すアートの学術的側面とマーケットの側面の接続を具現化しています。今年は森美術館館長の片岡真実さんの監修のもと、「大地と風と火と:アジアから想像する未来」と題して開催予定です。世界の各地域から57組のアーティストが参加し、その作品を通じてアジア的な観点から未来を考えます。
南青山に期間限定でオープンする憩いの場「AWT BAR」は、設計をランドスケープアーキテクトの戸村英子さん、フードを⻘山の「EMMÉ」の延命寺美也さんにお願いしました。ここでは先ほどお話しした、AWTの参加施設で作品を見られるアーティストとのコラボレーションカクテルを飲むこともできます。さらに「AWT BAR」では、今回新たに音のプロジェクトも行います。常に音を感じられるような仕掛けがあったり、ライブパフォーマンスも行われたりする予定で、これらのデザインは、実験的な音楽を紹介するイベントシリーズ「MODE」の共同ディレクターである中野勇介さんにお願いしました。 また新しい試みとして、建築家・妹島和世さんの事務所と提携して、普段はアクセスできない都内の建築物を巡るツアーも企画中です。日本人建築家が設計した住宅などをAWTの間だけ開放していただく貴重な機会です。ほかにもニューヨークのスカルプチャーセンターでディレクターを務めるソフラブ・モヘビさんが選んだ映像作品を上映する「AWT VIDEO」など多彩なプログラムがありますので、どの入口からでも気軽にご参加いただきたいですね。 ──最後に、AWTを通じて実現したい未来のヴィジョンについてお聞きできますか? 蜷川:国際社会に属する一人として、社会貢献やサステナブルな文化のインフラづくりに携わりたいという思いは、コマーシャルギャラリーを始めた頃から変わっていません。AWTがそうした自分の資本を投じる従来の仕事と異なるのは、これが文化庁のサポートを得て、東京都と共に行うパブリックな事業であるということです。そのなかで私自身は、AWTを、日本社会にコンテンポラリーアートとはどういうものかを共有する、一種の教育的な事業であると捉えています。 日本では、義務教育で現代の美術史を学ぶ機会はありませんよね。しかし私は、コンテンポラリーアートとは、この不安定な情勢のなかで、政治的な活動にはできないかたちで民主主義を獲得することのできる有効なツールと考え、この仕事をしてきました。集団行動やイデオロギーを重視する政治に対し、アートは個人の感覚や感情を大切にしながら、観客に新しい世界や社会の複雑さ、ときにはその解決方法を見せてくれます。そうした可能性を、コミュニティの力を借りながら、今後もより多くの方に共有していきたい。そのように考えています。 BY TAMAKI SUGIHARA