生成AIへの期待と幻滅が“同居”--ガートナーがCIOに提示した生成AIの導入定着策
ガートナージャパンは、10月28~30日に年次イベント「Gartner IT Symposium/Xpo」を開催している。初日の基調講演では、生成AIの現状を取り上げるとともに、日本企業の最高情報責任者(CIO)やIT部門の幹部が生成AIを自社にとって確かなものとして導入、活用していくための方策を示した。 2022年後半に出現した生成AIは、あらゆる企業や組織を大きく変革するテクノロジーとして注目を集め、2023年以降は世界中の企業や組織が生成AIの本格的な活用方法を模索し続けている。現状では、具体的な活路を見いだす企業や組織と、そうではない企業や組織とに二極化の様相が出てきているという。 基調講演に登壇したバイス プレジデント アナリストの本好宏次氏は、ガートナーが提示している「ハイプ・サイクル」において、現在の生成AIが実質的に「過度な期待のピーク期」と「幻滅期」の両方に位置付けられていると切り出した。現在の生成AIでは、ITベンダー側が開発や実装などを進めて競争が加熱し、その進化への期待が高まる一方、ユーザー側は、その成果を獲得できないでいることに“幻滅”している構図だという。 しかし本好氏は、ユーザー側では生成AIへの対応を自分たちのペースで決められると説く。ペースには、「堅実なAI」と「加速的なAI」の2つがあり、「堅実なAI」とは、自社環境などで着実にAIの活用に取り組む組織であり、AIの概念実証(PoC)が10件未満を目安とする。「加速的なAI」とは、AIにより破壊的な状況にある業界やAIファーストを志向する組織であり、PoCで10件以上が目安になるとのことだ。 本好氏と、同氏と共に登壇した米Gartner マネージング バイスプレジデント リサーチ&アドバイザリのGalliopi Demetriou(ガリオピ・デメトリウ)氏が、「堅実なAI」と「加速的なAI」のそれぞれのペースで企業や組織が生成AIを取り入れていくために、「ビジネス」「テクノロジー」「行動」の3つの観点から生成AIの導入と活用定着化への道筋を解説した。 生成AIで生産性の価値を引き出すのは意外と難しい 生成AIに期待する効果について、ガートナーの調査では、50%が従業員の生産性向上、30%がプロセスの改善、20%がビジネスモデルだった。ここでDemetriou氏は、生成AIから生産性の価値を引き出すことが想像以上に難しいと指摘した。ガートナーの調査では、IT部門幹部の71%が「従業員は日常業務でのAI利用に苦労している」と回答し、AIの導入で生産性の10~30%が失われる恐れもあるという。 その理由は、生成AIのビジネス効果を獲得するには、自社のビジネス状況などを継続的に学習したりモデルを改善させたりする必要があるからになる。また、Demetriou氏は、生産性の向上には“落とし穴”もあると指摘した。 「生成AIを活用している企業では、週当たり3.6時間、1日当たり43分の業務時間を削減している。だが、空いた時間を全て別の業務に有効活用するとは限らない。趣味など別の物事に充てる人もいるだろう」(Demetriou氏) さらに別の考慮すべき点もあるという。例えば、コールセンターでは、生成AIを活用して未熟なオペレーターが熟練者並みの顧客対応ができる効果が期待される。一方で、法律事務所の場合は、未熟な担当者では生成AIを使いこなせず、熟練の弁護士ほど駆使できるだろうという。 Demetriou氏は、生成AIがもたらす生産性の恩恵が平等なものではないとし、その恩恵を得るには、適用する業務で求められる経験値と複雑度によって異なると解説する。端的には、生成AIで飛躍的に生産性が向上するのは、「経験値も複雑度も低い業務」もしくは「経験値も複雑度も高い業務」という。同氏は、生成AIの導入ではまずこの特性を踏まえ、新しい物事に魅力や関心を抱くキーパーソンがけん引役となることが大切だと述べた。