生成AIへの期待と幻滅が“同居”--ガートナーがCIOに提示した生成AIの導入定着策
「ビジネス」の観点では、AIにまつわるコストと成果も重要になる。同社によると、生成AIに対する2023年の企業の支出額は30万~290万ドルに上った。AIへの投資は、従来のIT投資とは大きく異なり、すぐに成果を得られるものでなく、生成AIのコストの見積もりでは、500~1000%もの誤差が生じる恐れがあるという。 Demetriou氏は、「クラウドにおいても初期にはコスト削減が期待されたものの、現在では多くのクラウドプロバイダーが値上げしている。AIでも同様になる」と指摘する。実際に同社の調査でも、多くの最高財務責任者(CFO)がAIコストの超過を懸念しており、コスト管理がAIの価値創出を阻害していると考えるCIOは、世界では91%、日本では95%にも上っている。 こうしたことからDemetriou氏は、生成AIの導入を「堅実なAI」のペースによって進める企業や組織では、飛躍的な生産性向上とコストの理解に重点を置くべきとする。他方で「加速的なAI」のペースで進める企業や組織では、「全てのメリットを追究すること」や「リアルタイムにコストを監視すること」も重視しなければならないという。 「AIテクノロジーサンドイッチ」 次に、「テクノロジー」の観点について再び本好氏が解説した。ここで同氏は、まず生成AIは、データレイクや共有のドライブ(ストレージ)、記録媒体といったあらゆるデータのソースにアクセスできることや、生成AIが利用するデータの70%が非構造化データであると指摘した。 さらに同社では、2026年までに業務アプリケーションの80%以上で生成AIの機能が実装されるとも予想している。数年後の企業や組織では、多種多様なデータや集中管理されたデータと、業務アプリケーションなどに組み込まれた組み込み型AIモデル、部門主導などで利用されるAIモデル(Bring Your Own AI:BYOAI)、自社構築のAIモデルが存在する「AIテクノロジーサンドイッチ」の様相になるとする。 このため本好氏は、生成AIに対する適切なアクセス権限の割り当てや管理が必須だと指摘し、生成AIの信頼性を担保する態勢と確立する必要があると述べた。「堅実なAI」のペースを志向する企業や組織では、「中央集権型コミュニティー」「責任あるAIを担うチーム」「AIの実践を担うコミュニティー」の3つが必要になり、「加速的なAI」のペースを志向する企業や組織ではさらに、「リアルタイムな意思決定」「プログラムによるプラクティスの適用」「迅速な展開」の3つが求められるとした。 特に「加速的なAI」のペースを志向する企業や組織は、人に依存することなくテクノロジーでAIの信頼を担保する概念「TRiSM(Trust, Risk, Security, Management)」が鍵を握るという。TRiSMとは、「信頼を高めるプラクティスの機械化」を意味し、ここではAIのデータへの不適切なアクセスやハルシネーション(誤った情報の生成)といった信頼を毀損(きそん)しかねないAIの行為をAIのテクノロジーで監視、防止する対応になるという。 本好氏は、「AIテクノロジーサンドイッチ」にこのTRiSMを組み込み、企業や組織の状況に応じてカスタマイズした「AIテクノロジーサンドイッチ」を整備することが肝心だと説く。サンプルとして、例えば中小企業では、自社構築のAIモデルよりも組み込み型AIモデルやBYOAIの比重が高くなると想定されることから「ベンダーパッケージサンドイッチ」モデルが考えられるという。公的な組織では、信頼性の確保が最も重要になることから「トラストリッチサンドイッチ」モデルが推奨され、大企業ではあらゆる要素を重要とすることから「デラックスサンドイッチ」モデルになる。 同氏は、「堅実なAI」のペースを志向する企業や組織では、「AIのアクセス権管理」と「プラクティスによるガバナンス(規範などによるAIのガバナンス)」が必須だとし、「加速的なAI」のペースを志向する企業や組織ではさらに、「AIテクノロジーサンドイッチのカスタマイズ」と「TRiSM」も不可欠になると解説した。