映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」 3人のゲストによる座談会
モデルたちを「前座」にしてしまう、出たがりなデザイナー
F:ガリアーノのカリスマ性や、過剰なほどのショーマンシップについては? いつも派手な扮装をしてショーのフィナーレに登場していましたね。 シトウ:当時はディオールのショーって、ランウェイのモデルが壮大な「前振り」だと言われていて。 ドリアン:前座ですからね(笑)。本人が最後「あたしよ!!!!!」と出てきて、観客も「よっ!待ってました!」となる。 都築:さっきシトウさんが事件当時の話で「みんなガリアーノを見に来ているのに出てこなくて」とサラッとおっしゃったときに、それってある種、破綻しているというか。コレクションのランウェイなのにみんながデザイナーを見に来るという(笑)。 一同:(笑) シトウ:ショー直前って、普通はデザイナーがモデルたちのルックの最終的な手直しをするじゃないですか。ガリアーノはしないんです、自分がされている側(笑)。 ドリアン:こういうタイプってたぶん今まで一人もいないですよね?イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)も違うし、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)も違うし。若いときは内気だったけど、18歳ぐらいからもうクラブでお尻を出していた、と言ってましたし(笑)。出たがりで、一番手に負えないタイプ。 都築:シャイボーイ特有ですよねこれ(笑)。内気であればあるほど、酔っ払うと訳分からないことをする、という典型的な。 ドリアン:でも本人が出たがりじゃなかったら、ここまでのディオールにもならなかった気がします。やっぱりスーパースターだったと思うんですよ。だれかがおっしゃってました、「ガリアーノの登場でファッションというものがいきなりロックになった」って。 シトウ:「ガリアーノ劇場」でしたもんね。 ドリアン:あの頃に比べて今、ハイファッションって面白くない気がしちゃうんです。 見せ方がうまい方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、ここまで「ショービズ!スペクタクル!」な人はもういない。こういうことを言うと「うわ、懐古趣味のババアが」という反応がくるんでしょうけれど(笑)。 都築:そうそうそう(笑)。そういう閉鎖的な風潮は感じます。異文化が入ってくることを若い人が拒絶しちゃうところもあると思います。静電気みたいに「バチッ」となって手を放しちゃうイメージ。だからこそ、やっぱりガリアーノは「消えちゃダメな人」なんでしょうね。