映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」 3人のゲストによる座談会
都築:今のネット社会と近いっすね!
この映画を見終わった感想は「こいつガチやばいよ!」
F:皆さんがこの映画について友達にLINEするとしたら、まず何を伝えますか? シトウ:私だったら「2011年のあの事件の真相があるよ」。事件が起こってから「なんだったんだろう?」というモヤモヤがずっと残っていたから、それがクリアになった気がします。 ドリアン:私の場合、ガリアーノのディオール全盛期をある程度共有した人に「ほら、やっちまったじゃん? ガリアーノ。その顛末と再生の物語よ」と送るかなと思います。 都築:俺はちょうど試写を見た後に服好きの友達と会って、この話をしたんです。で、「こいつやばいわ!」って言いました。 一同:(笑) 都築:「いや、これガチやばいよ! マジめちゃくちゃだよ」と率直に言いましたね。僕は今20代後半なんですけど、リアルタイムであの事件を体験していないので「過去にそういうことがあったよね」というアーカイヴ的な感覚なんです。 シトウ:3億円事件みたい(※1968年に起きた約3億円の現金が奪われた窃盗事件)。 ドリアン:そうね、「キツネ目の男ってだれ?」みたいな(※1984年に起きたグリコ・森永事件の犯人グループの一員とされた男)。 都築:だから僕は、映画の中心となっている事件よりも「世界を代表するデザイナーってこういう道筋をたどるんだな」というところに注目していました。
地球のファッション史を変える、一人の天才が現れた
F:卒業制作のコレクションから全盛期のショーまで、さまざまな貴重なフッテージがありましたが、皆さんはあらためてどういうところにガリアーノの才能や魅力を感じましたか。 シトウ:私が印象的だったのは、ファッション業界の重鎮、アナ・ウィンター(Anna Wintour)やトップモデルたち全員がガリアーノのことをサポートするところ。やっぱり天才デザイナーはトップの人を引きつける力があるんだな、と感じましたね。 F:ケイト・モス(Kate Moss)やアンドレ・レオン・タリー(Andre Leon Talley)、エドワード・エニンフル(Edward Enninful)なども登場しましたね。 ドリアン:ファッション業界全体が「こいつだ!」と思ったんでしょうね。 都築:もちろんガリアーノは天才なんでしょうけど、周りのバックアップもすごかった。これからこの地球で起きるファッションの歴史を考えて、みんなが後押ししていたのがよかったなと思いましたね。 ドリアン:私はやっぱりこの人はオートクチュールの人だと思うんです。クチュールはそれこそ「だれが着るんだ?」という服ではあるけれども、ブランドとしての方向性や美学、ポリシーをランウェイで体現するもの。ガリアーノはドレスを通して人々に夢を見させる“魔力”が一番強い気がするんですよ。まさに魔法使い。ドラァグクイーン的な「非日常のアウトプット」にも相通ずるものがあります。あと演出がうまい。クィアな感性が冴えわたっています。 都築:僕は映画の序盤が印象に残っています。ガリアーノは元々スケッチばかりをしていて、実技においては不器用だったのに、学校の先生に「スケッチで線を書くように、糸を引きなさい」と言われたのを一瞬で落とし込めた。普通は「言われたって分からねえよ!」ということが大半だと思うんです。僕はけっこう不器用で考え込んじゃうタイプだから、そういうところを羨ましく感じましたね。あとこういう人って、ちゃんと必要なタイミングで転機になる人物が現れて、そういう偶然のような、必然のようなことが起きるんだな、と。