晩秋の京都の花街、92歳と27歳の「芸妓姉妹」の物語…2人が見据える先は
赤く色づいた紅葉が舞い散る中、 芸妓(げいこ)たちが扇を翻し、あでやかに踊る。京都五花街(かがい)の一つ、宮川町が11月に京都市内で開いた秋の舞踊公演「みずゑ 會(かい)」を締めくくる名物の宮川小唄。群舞の中に27歳の多栄之(たえの)がいた。
舞台袖では、92歳の芸妓・ 多栄(たえ)がじっと見守る。2人は花街の伝統にのっとり、絆を固める杯を交わした65歳差の「姉妹」として、ともに芸に精進している。
多栄は舞台からの引退を考え始め、芸妓人生の集大成を思い描く。デビュー3年目に入る多栄之は、一人前の芸妓への成長を求められ、正念場を迎えていた。
妹が見せる成長の舞、見守る姉
雨宿りに立ち寄った男女が共白髪になるまでの行く末を誓い合う。おめでたい曲「鶴の声」を厳かに舞う舞妓たち。傍らで、芸妓の多栄が、格調高い旋律を三味線で奏でる。
11月、京都の花街・宮川町の秋の舞踊公演「みずゑ會」が、幕を開けた。
宮川町で最年長の多栄は演奏専門の地方(じかた)。他の地方の唄や三味線とぴったりと息を合わせ、踊りを担う 立方(たちかた)を支える。「それが私の仕事やからね」と誇るが、このごろ耳が少し遠くなったと感じる。「今は大丈夫なんですけど。私の調子が合えへんかったら、他の人に気の毒です」
頭によぎるのは、引退の2文字だ。近い将来、その時期が来るとは思うが、まだ頑張れる。三味線の一音一音をいとおしむように弾いた。
多栄と入れ替わりで、多栄之が舞台に登場した。黒い裾引きの着物に稲穂を日本髪に挿した正月の装い。初春に江戸・隅田川で渡し船に乗り合わせた人々が順番に踊る演目「乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)」で、芸者役に起用された。若手芸妓7人が出演し、1人ずつ踊る場面がある。デビュー2年目の多栄之は大抜擢(ばってき)だった。
京都の花街では、多くの女性が中学卒業後に舞妓となり、4~5年の修業を経て芸妓になる。舞妓を経ず、20歳代半ばで芸妓になった多栄之は経験不足を自覚し、懸命に稽古に励んできた。